あなた side
ずっと、分からなかった。
何故6年前……私だけ無傷で生き残ったのか。
私の身に、一体何が起こったのか。
でも今になって、一つだけ思い出した。
私はあの時、温かい光を感じた。
それが何なのかは、未だに分からないけれど…
これだけは、確信して言える________
今、私を優しく包みこんでいる''光''は、
6年前のあの光と''同じモノ''だって……
真人さんがそう呟いた時、頭の中に流れてきたのは、
両親との温かい記憶の数々__________
_________ではなく、
貴方から貰った、力強く優しい言葉。
ピカッと、効果音が付きそうなほど
私の心臓の辺りを中心にして、光が広がる。
その光は、あの6年前に見た光と同じで
とても温かく,虎杖さんの様な優しさを感じた。
光と同時に、何かを吸い取られる様な感覚に襲われ
私はそのまま、意識を手放した。
ケーキのような甘い匂い。聞き覚えのある鼻歌。
優しく美しい小鳥たちのさえずり。
あれ……ここは何処だろう。
私、一体何して……?もしかして死んじゃったの?
……っ!?この声って、もしかして……!
そう心の中で叫んだ途端、一気に世界が明るくなる。
明るく染った視界の中で、真っ先に映ったものは…
そう言って優しく笑い、私の頭を丁寧に撫で始める。
その優しさを詰め込んだかの様な温もりは、
……夢でも、私の妄想でもない。これは本物だ。
私がそうお母さんの胸に思い切り抱きつけば、
お母さんは優しく受け止め、また頭を撫でてくれる。
声がした方を振り返れば、6年前と変わらない姿で
両手にケーキを持ったお父さんがそこに立っていた。
お父さんはそのまま私とお母さんに近づき、
慎重な手つきで,私の前にケーキを置く。
その少し恥ずかしくなるようなセリフも
大きく歯を見せて笑う笑顔も……全てが懐かしい。
鼻水と涙でぐちゃぐちゃな顔を、
お母さんが優しくティッシュで吹いてくれる。
そして手渡されたフォークで一口、
大好きで久しぶりに食べるお父さんのケーキを頬張る。
噛み締める度に
いちごの甘酸っぱさとクリームの甘みが交わり、
サクサクと焼かれた生地がそれらを引き立たせる。
…やっぱりお父さんのケーキはとっても美味しい。
でも、それだけじゃなくて________
涙を零しながら、私がそう必死に伝えると、
お父さんとお母さんは顔を見合せて笑い,私を抱きしめた。
二人が初めて見せた、寂しそうな顔。
私はその二人の表情に、少し疑問を覚えた。
お父さんの言葉で、周りがまた明るく光り始める。
もう、お父さんとお母さんの顔を
見る事さえ出来なくなった。
……でも不思議と、寂しくはなかった。
それはこの光から、二人の優しさを感じるから。
光が段々と強くなり、目が眩んでいく。
そしてまた私は、凄まじい眠気に襲われ
優しい温もりの中で、安心して眠りについた。
目を開くと、もう見慣れた白い天井。
私は、ここが高専の医務室だとすぐにわかった。
そして、私の手を不安そうに握っている彼の存在にも
私はすぐ気がついた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!