あなた side
そう言って、悪魔の上に馬乗りになり
いつでも殺せるようにナイフを構える。
その間、意外にもこの悪魔はずっと静かで、
まるで,こうなる事は予想通りとでも言いたげな顔だった。
真人さんは言った
「本当に殺されそうになった時,本性を現す」と。
だから最後くらい、アンタの本性を見せてよ。
私がアンタを「殺してよかった」と思えるくらいのを。
何だこの質問は……と思ったが、ここは正直に答えた。
実際、この一ヶ月半は本当に楽しかったから。
そう何気なく答えたが、
悪魔は私の返答に少し黙り込んだ後…
そう言って、優しく笑った。
は?何それ……じゃあ初めからコイツは、
「私の為に死にたくなかった」ってこと???
悪魔の言葉が,私の心を温かくしていく様な感覚がする。
心に光が帯びていくようで……
まるで目に見えないナニカに守られている様だった。
今更、コイツが私の事を
どう思っているかなんて関係ない。
コイツが私の両親を殺した''悪魔''だった事には
変わりない。
だから…………
だから………ッ!
だか…ら……っ、
…………ッッ、
最後の力を振り絞り,ナイフを持った腕で振りかぶる。
カランと乾いた音がして、ナイフが床に転がった。
その音を聞いて、目を瞑っていた彼も
思わず目を見開く。
溢れてくる涙を裾でゴシゴシと擦り、
今できる精一杯の顔で虎杖さんに笑って見せた。
まるで、奇跡でも目の当たりにしたかのように
'' 虎杖さん '' は、目を大きく見開く。
そんな顔があまりにも面白くて、
少し笑いを吹きこぼしそうになってしまった。
予想外にも、背後から彼の声が聞こえて、
思わず立ち上がり、彼の元へ駆け寄った。
動こうと必死にもがいているが、
当然術式の影響で動くことの出来ない虎杖さん。
……でも、なぜ彼が必死にそう叫んでいるのが
私にはよく分からなかった。
結果的には、真人さんの気持ちを無下にしてしまった。
でも、真人さんならきっと……
……ほら、やっぱり許して________
脳が何らかの危険信号を察知した時にはもう遅く、
流れるように、真人さんは私の頬に優しく触れ……
そう冷たく、無慈悲にも囁いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。