結局、俊はそれ以上
何も聞いてくることはなかった。
もしかしたら、察知したのかな。
俊はため息をつくと、言われた通りに
コーンの周りを走り始めていく。
その姿に胸がじんわりと熱くなる。
きっと私を目立たなくさせるために、
俊が代わりに犠牲になってくれたんだ。
隠された。
なんて、とても言えない。
でも亜莉朱ちゃんは理由が分かると、
すぐに明るい笑顔になって
一緒に練習に誘ってくれた。
わ、次私の番だ!!
頑張ってパス受け取らなきゃ。
意識を集中させて構える。
そう口にした時にはもうすでに遅く、
足元にあるボールにつまずいて、
ドシンと床にそのまま尻もちをついた。
お尻をさすりながら、ボールの方を見る。
なんで私、ボールなんかに
つまずいちゃったんだろう……。
さっきまで、こんなとこに
ボールなんて無かったはずなのに。
あわてて俊が駆けつけてくれた。
それもとても心配そうに。
指で回転させていた
佐々木くんの手元から、
ボールが落っこちる。
いやいや、きっと佐々木くんのせいじゃない。
私の不注意なだけで……。
体がふわっと宙に浮いて、すっぽり俊の腕に。
え―――っ!?
お姫さまだっこなんて……。
憧れのシチュエーションで、
夢の夢だと思っていた。
……でも!!
そんなにじっくりと見ないでー…!!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!