面の異変が収まった――表向きには、そう見えた。
幻想郷は、季節の巡りとともに、いつも通りの穏やかさを取り戻していた。
博麗神社には、今日も何人かの顔ぶれが集まり、ゆるやかに、どこか懐かしい風が吹いていた。
「ふぅーっ、今日もいい天気じゃん!」
ミオが神社の縁側に腰掛け、空を見上げる。
「こんな日はお茶に限るわね」
霊夢が湯飲みを差し出しながら、小さく笑った。
「……あのさ」
こいしが、ぽつりと口を開く。
「ほんとに、終わったのかな。あの“異変”」
「終わった、というより……幕を閉じただけ、って感じがする」
フブキが耳をそばだてながら、静かに答える。
「まだ……聞こえるんだよね。小さな、仮面たちの“声”が」
「私は、時折“星”のざわめきを感じることがあるよ」
すいせいはゆっくりとした口調で言った。「まるで、呼ばれてるような……そんな感じ」
そのときだった。
――「やっぱり、気付いてたのね。さすがよ」
境内に、紫の隙間が開き、八雲紫が優雅に現れる。
「また何か来るの?」
魔理沙が肩をすくめた。
「来る、というより……“来ている”のよ。星の歌姫が目覚めたことでね」
紫の瞳がすいせいに向けられる。
「あなたが“仮面の核”に触れた瞬間、異変の残響は静かに、でも確かに目を覚ました。次に待っているのは、面ではなく――\*\*“面が映した心”\*\*なの」
霊夢が眉をひそめた。
「つまり、また異変ってことじゃない」
「ううん、異変とは少し違う。もっと深くて、個人的なもの」
幽々子がふわりと現れ、後ろから囁く。「魂に触れたものは、簡単には消えないのよ」
「じゃあ、どうすれば?」
ミオが問いかける。
「まずは、“向き合うこと”。あなたたちの中に残る記憶に」
紫の声はいつになく真剣だった。
「星街すいせい。あなたの中に眠る“仮面たちの残滓”。それは他でもない、“過去に傷ついた幻想郷の想念”なの」
静寂が流れた。
すいせいは、そっと目を閉じる。
「わたしは……その記憶に、触れてみたい。もしそこに、まだ“救える心”があるなら」
「わたしも、行くよ。すいちゃん一人に背負わせたくない」
フブキが手を取った。
「影も、感情も、一緒にね」
ミオもまた、微笑んで手を重ねた。
こころが小さく頷いた。
「わたしも……一緒に。今度は、ちゃんと役に立ちたいから」
そしてこいしが、照れくさそうに頬を掻く。
「みんなが行くなら、わたしもついて行くよー。ちょっとは“お姉ちゃん”らしくしてみようかな」
紫は、満足そうに目を細める。
「では、次に向かうは――**記憶の裏庭**。摩多羅隠岐奈が閉ざした、“心の試練の回廊”」
「うわー、また難しそうな名前が出たなぁ……」
魔理沙がため息をつく。
「それだけ、深いってことよ。星の光じゃ、届かない闇もあるわ」
紫が最後に残したその言葉が、みんなの胸に深く染み渡った。
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数日後:幻想郷各地
すいせい、フブキ、ミオ、こころ、こいしは、それぞれの鍛錬を続けていた。
博麗神社の裏庭では、連携スペルの調整が行われている。
「じゃあ、いくよっ!」
ミオの影がうねり、フブキの雪と融合して“冥夜の桂花”が放たれる。
「続けて、“暗雪妖魔術”っ!」
こころが感情の面を掲げ、仮面が浮かび上がり、時空を震わせる。
「じゃあ、わたしの番かな……“氷闇螺旋”っ!!」
すいせいの星の力と合わさった氷と影が、幻想郷の空に夜のような美しさを描く。
その様子を、紫や幽々子、霊夢たちが温かく見守っていた。
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境内の灯篭が揺れる中、フブキたちは焚き火を囲んでいた。
「……それでね、面の記憶って、単なる力じゃないんだと思う」
すいせいが静かに語る。「悲しみや怒りや、どうしようもない孤独……そういうのが、仮面になって現れてたんだって」
「じゃあ、それを……どうすれば?」
ミオが問う。
「認めてあげること。拒絶せずに、手を伸ばすこと」
フブキがそっと目を閉じる。
「心の声を、ちゃんと聞くことだね。感応して、繋がる」
こいしの言葉に、皆が小さく頷いた。
やがて、すいせいが星空を見上げながら、微笑む。
「わたし、あの星の向こうで誰かが泣いてるような気がするんだ。でも、今はもう……怖くないよ」
――心が静かに繋がる。
新たな戦いが始まる、その前に。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。