- 宝石学園中等部 アウイナイト寮 -
玄関の扉を開け、リビングへと足を運ぶ。リビングにはテレビ画面でゲームを楽しんでいる雄二がいた。その様子を見た優は無言でその場に止まってしまう。
今まで母の言葉の言いなりになっていたからとはいえ、雄二に声をかけられる度に無視をしてきた優からしたらこの空間は気まずいものだった。
もう1年も終わるというのに彼とまともに話したのは今回が初めてだ。だからなのだろうか。緊張して握っていた手が震えてしまう。
でもこのままではいけない。そんな気がした優は小さく深呼吸をした後、テレビと向き合っている雄二に声を掛けた。
雄二は耳だけを優の方に向けながら器用にコントローラーを動かし続けた。
その一言の意味が理解できなかった雄二は、手を止めて優の方に視線を向けた。
たったそれだけの行動だったのに、優は更に緊張が走ってしまった。
優の言葉を遮るように雄二はそう呟いた。その言葉の意味を理解できなかった優は、思わず声を漏らしてしまう。
予想外の反応に、優は困惑した表情を浮かべてしまう。でも雄二は太陽のような笑顔を彼女に向け続けた。
そして、机に置いてあった使っていないコントローラーを取り、彼女の方に歩み寄りながら。
そう提案した。優は震えた手でコントローラーを受け取ると、ゆっくりと雄二の顔を見つめた。
そして、溢れ出そうな涙を溜めながら嬉しそうにそうお礼を伝えるのだった。
- 翌日 -
- 宝石学園 体育館 -
バスケ部に所属している3人は学園の中にある体育館でシュートの練習をしていた。
2人より背が低い湊斗は、あまりシュートが成功しないようで頬を膨らませて不機嫌な表情になってしまう。それを2人はなんとかして宥めていた。
普段はよくシュートが入る莉央は珍しく今回はシュートを外してしまった。だからもう一度ボールをゴールに向かって投げる。
そんな時だった。
左手にクリップボード。右手にボールペンを持った樹が体育館にやってきた。それに気が付いた2人は彼の方へと駆け寄る。
樹もバスケ部に所属していた。今は引退済ではあるが、過去にこの部の部長を任されていたくらいだ。実力もかなりのものである。
湊斗からボールを受け取った樹はクリップボードとボールペンを舞台の方に起き、いちばん近くに設置されているゴールの目の前に立った。
綺麗な姿勢でゴールを決めた樹をキラキラとした目で見ていた湊斗は樹からボールを返してもらうと、ぴょんと少しその場でジャンプしながらボールを投げる。
シュートが入ったことがとてつもなく嬉しかったのか、湊斗は小さな子供のように喜びながら紘太に抱きついた。
その状況がどこか微笑ましく感じた樹は、笑みを浮かべた後に先程舞台の上に置いていたクリップボードとボールペンを手に持つ。
そして体育館倉庫の鍵を開けながら2人に手を振ってその中へと入っていく。
湊斗の頭を撫でながら、紘太がそう呟いた時。
どこか作り笑いを浮かべた莉央が焦ったような表情でこちらの有無も聞かずこの場から去ってしまった。
それに少し疑問を抱きつつ、紘太は遠ざかっていく莉央の背中を静かに見つめるのだった。
第13章 [ 泡沫の雫に紘の優しさを ] - 完 -


















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。