それから数日。
放課後になるたび、あなたの下の名前は自然と体育館へ足が向くようになっていた。
最初こそ「お邪魔じゃないかな」と思っていたのに、九人は毎日のように笑って迎えてくれた。
その空間が、少しずつあなたの下の名前の“居場所”になっていくのを感じていた。
佐久間くんが全力のテンションで手を振り、
向井くんが笑う。
そんなふうに声が飛ぶたび、胸がほぐれていく。
ペットボトルを渡すと、岩本くんが
と短く言ってくれた。
その“短さ”が逆に嬉しい。
必要とされている気がして。
休憩時間。
鏡の前でストレッチをしていたラウールくんの視線がふいにあなたの下の名前に向いた。
笑われるのに、不思議と嫌じゃない。
むしろ、この輪の中にいる自分がどこかくすぐったい。
ラウールくんが軽く足をさすりながら言った。
その言葉が、妙に胸に残った。
阿部くんが優しく手招きする。
目の前でメンバーが細かいステップの調整を始めた。
阿部くんが見せてくれる一つひとつの動きは、どれも繊細で美しかった。
その言葉に、あなたの下の名前は少しだけ胸がざわついた。
この9人は、強い。
絆が深い。
あなたの下の名前が入り込む隙なんて、本当はないのかもしれない。
そう思った瞬間、
呼ばれて振り向くと、目黒くんが手を振っていた。
差し出されたのは、スピーカーのリモコン。
昨日教わった通りにボタンを押すと、音が流れた。
目黒くんが目を細める。
胸がぎゅっとなる。
絆が深い場所でも、あなたの下の名前にできることがある。
そう思わせてくれるだけで、嬉しかった。
練習が終わるころ。
宮舘くんが静かに近づいてきた。
どきりとした。
自分では気づいていなかったことを、あまりにも自然に言われたから。
宮舘くんの落ち着いた声は、嫌というほど優しくて。
ひゅう、と風が吹き抜ける音が体育館の外から聞こえる。
その音が、不思議なほど胸に染みた。
帰り際。
渡辺くんがポケットに手を突っ込んだまま、ふとあなたの下の名前を呼び止めた。
渡辺くんが少し言葉をにごす。
いつものキレのある言い方じゃなくて、どこか遠慮がち。
あなたの下の名前は息を止めた。
今まで誰にも気づかれなかった“痛いところ”。
やっと見つかったようで、怖くて、嬉しくて、胸が揺れた。
渡辺くんは照れたように頭をかいた。
彼は続ける
胸の奥がきゅうっと熱くなる。
その返事が震えていたことに、本人は気づいていなかった。
――“言えよ、助けてって”。
その言葉が、少しずつ近づいてきていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!