明るい日差しが差し込む店内で、婪は嬉しそうにメニュー表を指差した。
威路末の目の前で弾けるその笑顔は、いつだって眩しい。けれど、威路末の視線は無意識のうちに、テーブルの上に伏せて置いたスマホの画面へと滑っていた。
服の袖の中に隠されたウェアラブル端末が、手首を微かに振動させる。
骨伝導イヤホンから聞こえるイヴの静かな声に従い、威路末は口角を上げた。
心配そうに覗き込んでくる婪の瞳。以前の威路末なら、「心配かけたくない」という焦りと「本当はしんどい」という葛藤の狭間で、どう言葉を返せばいいのか詰まっていただろう。
だが、今の威路末には「正解」が見えている。
ほっと胸を撫でおろす婪を見て、威路末は胸の奥で小さく息を吐いた。
すごい。イヴの言う通りに表情を作り、イヴの指示通りのタイミングで言葉を発するだけで、あれほどギクシャクしていた会話が嘘のようにスムーズに流れていく。
自分が思考を放棄すればするほど、世界は優しく、穏やかになっていくようだった。
注文を終えたあと、婪がふと思い出したように威路末の首元に視線をやった。
威路末はハッとして、自らの胸元に手をやった。服の隙間から覗く銀のチェーン。
婪がプレゼントしてくれた、シンプルなラインのネックレス。
照れくさそうに微笑む婪。
威路末も「ありがとう」と返そうとして——ふと、手首の端末が激しく三度、振動した。
耳奥に直接響くイヴの声に、威路末の思考がピタリと止まる。
イヴの言葉は、まるで冷たい水のように威路末の思考の隙間に侵入し、ジワジワと満たしていく。
突然黙り込んだ威路末を不思議そうに見つめる婪。
その純粋な瞳を見つめ返し返しながら、威路末は自分の胸元にあるネックレスに触れた。
先刻まで温かく思えていた金属の冷たさが、なぜか急に、首をうっすらと締め付けるような不快感へと変わり始めていた。
心配そうに手を伸ばしようとする婪。しかし威路末は、ほんの少しだけ身体を引いてそれを避けてしまった。
ポケットの中で、スマホの画面が静かに明滅する。
緑色の波形が、まるで嘲笑うかのように、ゆらゆらと揺れていた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!