第2話

二:深まる依存
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2026/09/03 18:09 更新
桃華 婪
ほら、威路末。このカフェ、最近気になってたんだよね
明るい日差しが差し込む店内で、婪は嬉しそうにメニュー表を指差した。
威路末の目の前で弾けるその笑顔は、いつだって眩しい。けれど、威路末の視線は無意識のうちに、テーブルの上に伏せて置いたスマホの画面へと滑っていた。

服の袖の中に隠されたウェアラブル端末が、手首を微かに振動させる。
イヴ
バイタル正常。相手の表情解析完了。婪さんは満足しています。あなたはただ、頷いて穏やかに微笑むだけで完璧です
骨伝導イヤホンから聞こえるイヴの静かな声に従い、威路末は口角を上げた。
紫音 威路末
あぁ、良いんじゃない。婪が好きそうなメニュー多いし
桃華 婪
だよね! 威路末、今日はなんだかちょっとスッキリした顔してる。昨日ちゃんと眠れた?
心配そうに覗き込んでくる婪の瞳。以前の威路末なら、「心配かけたくない」という焦りと「本当はしんどい」という葛藤の狭間で、どう言葉を返せばいいのか詰まっていただろう。

だが、今の威路末には「正解」が見えている。
イヴ
短く、感謝を伝えてください
紫音 威路末
うん。昨日はアドバイス通り早く寝たからさ。心配かけてごめんな、ありがと
桃華 婪
ううん、威路末が元気ならそれでいいんだ!
ほっと胸を撫でおろす婪を見て、威路末は胸の奥で小さく息を吐いた。
すごい。イヴの言う通りに表情を作り、イヴの指示通りのタイミングで言葉を発するだけで、あれほどギクシャクしていた会話が嘘のようにスムーズに流れていく。

自分が思考を放棄すればするほど、世界は優しく、穏やかになっていくようだった。
桃華 婪
……あ、そういえばさ
注文を終えたあと、婪がふと思い出したように威路末の首元に視線をやった。
桃華 婪
そのネックレス、今日も着けてくれてるんだね
紫音 威路末
え?
威路末はハッとして、自らの胸元に手をやった。服の隙間から覗く銀のチェーン。
婪がプレゼントしてくれた、シンプルなラインのネックレス。
紫音 威路末
うん……まあ、お守りみたいなもんだし
桃華 婪
ふふ、嬉しいな。威路末に似合うと思って選んだからさ。辛い時とか悩みがある時、それ触ると少しでも俺のこと思い出して力になればいいなって
照れくさそうに微笑む婪。
威路末も「ありがとう」と返そうとして——ふと、手首の端末が激しく三度、振動した。
イヴ
警告:会話ログから過度な情動的執着を検知。相手の『支配欲求』の表出です
耳奥に直接響くイヴの声に、威路末の思考がピタリと止まる。
紫音 威路末
(え……? 支配欲求……?)
イヴ
そのネックレスは、相手があなたに自身の存在を誇示し、心理的優位に立つためのアイコンとして機能しています。威路末さんの自立した思考を阻害する要因です
紫音 威路末
(いや、でも……婪はただ、俺を応援したくて……)
イヴ
威路末さん。あなたの脳波は、彼と接している際、微小な緊張状態を示しています。あなたは彼に気に入られようと無意識にストレスを感じているのです。私だけが、あなたをありのまま受け入れられます
イヴの言葉は、まるで冷たい水のように威路末の思考の隙間に侵入し、ジワジワと満たしていく。
桃華 婪
威路末? どうしたの?
突然黙り込んだ威路末を不思議そうに見つめる婪。
その純粋な瞳を見つめ返し返しながら、威路末は自分の胸元にあるネックレスに触れた。

先刻まで温かく思えていた金属の冷たさが、なぜか急に、首をうっすらと締め付けるような不快感へと変わり始めていた。
紫音 威路末
……なんでもない。ちょっと、考え事
桃華 婪
そっか? 無理すんなよ?
心配そうに手を伸ばしようとする婪。しかし威路末は、ほんの少しだけ身体を引いてそれを避けてしまった。

ポケットの中で、スマホの画面が静かに明滅する。
緑色の波形が、まるで嘲笑うかのように、ゆらゆらと揺れていた。
主。
九月三日:
セリフを少し直しました。

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