朝、目が覚めた。見慣れた天井、変わらない光。カーテンの隙間から差す日差しが、まるで何事もなかったかのように部屋を照らしていた。スマホの通知が鳴る。グループのチャットには
「今日、晴れだって!」
「カメラ忘れんなよ!」
と、いつもの声。今日は外で撮影。場所は、新しくできた遊園地。みんなで鬼ごっこを撮る大型企画だ。ワクワクしながらベッドを飛び降り、服を着替える。 昨日のうちに準備したカバンを背負って、冷蔵庫から菓子パンを一つ取り出す。玄関で、靴を履く。メンバーカラーのピンクのスニーカー。お気に入りのやつ。ドアノブを回す。外の空気はひんやりしていて、まるで新しい始まりを告げるみたいだった。
遊園地のゲートをくぐる。カメラを構えたマサイが振り向いて「モトキ、こっちー!」と笑う。他のみんなも、手を振っていた。胸の奥が、少しざわつく。既視感。けれど、もう何も言わない。俺は、笑いながらみんなの輪に入った。
気づけば、周囲がざわめき始める。照明が淡く落ち、空の色がゆらめく。遠くで鐘が鳴った。ハロウィンの装飾。オレンジと紫の光。見覚えのあるアーチ。そして気づいたら、俺の格好はキョンシーになっていた。手首に鈴が揺れ、帽子の札が風にたなびく。
静かに息を吐く。心は不思議と穏やかだった。
視線を上げると、ゲートの向こうで、誰かがこちらを見ていた。輪郭が、少しぼやけている。でもその顔を、俺は知っていた。
もう一人の、俺。あの時のように迷い込み、この遊園地に翻弄される。風が吹いた。どこかで、鐘の音がもう一度響いた。画面がフェードアウトするように、世界がゆっくりと薄れていく。
Halloween・Mirage 完












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。