遡ること一年前。
暗い部屋の中で、オレは一人静かにテレビを見ていた。
元々はアニメなんて見る属性じゃなかったけど『こころのビョーキ』になってから、すっかり二次元の世界にハマってしまった。
現実の煩わしいことなど考えずに済むし、何よりストーリーに没頭できるのがいい。
特に、アニメ『コードギアス』は繰り返し何度も見ている。
控え目にいっても「神作品」だ。
そうつぶやき、コーラを一口飲んだ。
口の中で弾けるシュワシュワ感と、甘ったらしい後味がクセになる。
『コードギアス』の中でも一番好きな回は、第9話だ。
ヒロインであるカレンは、実の母親のことを憎しみ、蔑んでいた。
しかし、母親はカレンに対し、昔と一切変わることなく愛情を注いでいた。
まだ平和だった頃の「あの時」に戻るため、リフレインと呼ばれる薬物を多用してまで、カレンを愛していたのだ。
母が娘を愛する気持ちと、カレンの葛藤が一気に解消されたストーリー展開に、心震えた。
オレも家族ともう何年も連絡をとっていないけど、母もまたオレのことを気にかけているのだろうか。
自分の家族のことを思い返し、少し胸が苦しくなった。
テレビを消すと、真っ暗な画面に自分の顔が映った。
思わず、口から本音が出てしまった。
一人暮らしを始めて3年が経つが、未だに誰かをこの自宅に招いたことがない。
家族を含めて、だ。
また、オレは人と出かけることが、ほぼない。
旅行なんかも一人で行った方が自由に動き回れるし、スケジュールだってその日の気分で変えられる。
でも、友だちとかと旅行すると、お互い時間を合わせないといけないし、色々面倒なのだ。
あと、『こころのビョーキ』になってからは、人と会うことすら億劫になった。
会ったらどうせ病状のこと聞かれるので、何かそういうのに答えるのが精神的にしんどい。
大丈夫じゃないから、3年以上も精神科に通っているわけで…。
何かを得たいなら、ほんの少しでも行動をしないと、何も起こらない。
一人が寂しいのなら「人と会う機会」に身を置かねばならない。
でも、頭の中では分かっていても、今ひとつその「一歩」を踏み出せずに、この3年間を生きてきてしまった。
変わりたいなら何かしないと…焦りだけが増えていく。
小さくつぶやき、オレは部屋の照明に手を伸ばした。
照明から長く伸びた紐を下に引くと、カチャンと乾いた音がした。
そして、部屋全体が真っ暗になった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。