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第1話

-月下美人-
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2026/02/26 00:18 更新
曲パロ 二次創作注意
参考元 月下美人 マイキP×ないこ(いれいす)

https://youtu.be/k07bftqpAGM?si=ND31ygGf7hKsbQNs

マイキさんのほうの二次創作のルールを把握できてないので禁止されていたらコメントで教えて頂けると嬉しいです、その場合即削除させていただきます



















  甘い匂いに誘われて、鬼は人の世へ降りた。




  水飴と焼きとうもろこしの香りが夜風に混じる。


  遠くで太鼓が低く腹に鳴り、

  笛が細く夏の空へ伸びる。


  提灯の灯りが揺れ、

  石畳を打つ軽快な下駄の音が乾いて響く。








  ちりん、と風鈴が鳴った。





  その音に、マイキは足を止める。



  幾世を越えてきた鬼。

  血も涙もとうに枯れたはずの存在。




  けれど、

  この季節、この日の夏の夜だけは心がざわめく。








ないこ
……今年も来たんだね


  朧げに探していた喧騒の向こう。


  淡い藍の浴衣。

  袖に咲く白い花。


  月下美人のように、夜にだけ浮かぶ姿。



  ないこが、立っていた。



  その笑みは人間のそれで、

  けれどどこか妖しく、現世から半歩ずれている。


マイキ
探してた


  マイキの声は低く、祭囃子に溶ける。


ないこ
うそ


  ないこは笑う。

  その笑い方は、ひどく儚い。


ないこ
鬼が、人を探す理由なんてないでしょう


  触れそうで触れない距離。

  指先がわずかに揺れる。





  触れれば消える気がした。




  花火が上がる。

  重なった太陽のような沢山の光が夜空を裂く。




  どん、と腹の奥に響く音。


  その閃光の中、ないこの横顔が照らされる。


ないこ
きれいだね
マイキ
……ああ


  けれどマイキの目に映るのは、空ではない。



  浴衣の袖の花。

  うなじに落ちる髪。

  揺れる視線。




  知らない。

  知らないままだ。



  この人間のことを。


マイキ
っ、いかないで


  口が勝手に動く。


  だが声は花火にかき消される。




  ないこは聞き返さない。

  聞こえていないのか、聞こえないふりか。


ないこ
ねえ、鬼さん


  振り向いた瞳は、夜露を宿している。

ないこ
もし、もう一度言ったら


  祭囃子が強くなる。


  太鼓が重なり、笛が高鳴る。

ないこ
何かが変わってしまうよ


  その言葉は、脅しでも忠告でもない。


  ただ、事実のように静かだった。



  一際大きな花火が散る。


  光の雨が夜を裂く。




  その残像の中で、ないこの輪郭が薄れる。



  月下美人は、夜にだけ咲くという。

  その花言葉はただ一度だけ会いたくて。





  それが寿命の比喩なのか、

  本当に一夜しか存在できないのか、


  鬼は知らない。





  ただ、朝が来れば消えることだけを知っている。



マイキ
……きえないで



  今度は、かすかに届いた。




  ないこは一瞬だけ目を見開く。

  それから、泣き顔を隠すように笑う。


ないこ
困るよ、


  風が吹く。



  花時雨のように、白い花びらが舞う。


  いつの間にか、月下美人が足元に咲いていた。






  鮮やかに、眩しく、

  そして脆いほど美しい。

ないこ
また来る?


 ないこが問う。
マイキ
来る


  即答だった。






  夜明け前、空が淡く白む。



  風鈴が最後に鳴る。

  ちりん、と。




  次の瞬間、ないこの姿は薄れていく。


  指先が、空を掴む。

  触れそうで触れない。



  残ったのは、甘い匂いと一輪の花。





  マイキはそれを拾い上げる。




  鬼の時間は永遠に近い。

  人の時間は、月下美人の咲く間ほど短い。





  それでも。



  翌年の夏、祭囃子が鳴れば、 

  きっとまた探してしまう。

 


  思い出す間もないままに、

  浮かんだ君の声を。

マイキ
行かないで


  そう呟きながら。

  夜は、静かに明けていった。





  「また来年も咲くことを願って」













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