大路良高校の二年生全員が楽しみにしていた、中間テストの後の一大イベント……修学旅行。そんな四日間の楽しい時間も、もう終わりを迎えようとしている。
今は帰りの新幹線の中。彩々とふーちゃんと座席を合わせて、お菓子を食べつつ雑談している。
彩々にそう言われて思い出した。私が大路良高校に入ったのはちょうど去年の今……十月の真ん中頃だった。
結構活発な彩々でさえもそんな印象を持たれていたなんて、驚きだ……。
ふーちゃんの唐突なマダムへのキャラ変を軽く受け流して続ける。
彩々が声をひそめた。私の声は思ったより通っていたらしく、通路を挟んで横に座っていた担任から仏のような笑みが向けられていた。
来年の今頃は勉強漬けか……。そんなことがふとよぎって、私まで頭が痛くなる。
そんな二人のやり取りを聞きながら、私は窓の外の景色に目をやる。全く知らない県の全く知らないところ。田んぼが広がり、遠くには山が見える。大路良市とそんなに変わらないなー、なんて、そんなことを考える。
彩々が、お土産の入った紙袋の中から箱を一つ取り出した。修学旅行先の名物のお菓子だ。どうやら、家族たちに買ったのとは別に、私たちと食べるためにも買ったのだそう。
美味しいお菓子と、その後のお昼ご飯で配られた弁当に舌鼓を打ち、お腹は満たされた。
旅の疲れと満腹感。そんな最高の条件が揃ったので、私は眠気に勝てるはずもなく……。
あっさりと、夢の世界に入っていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!