星は見ていて飽きないから。
……濃紺の空に瞬く星が綺麗だから。
私は誰も知り合いの居ないこの街で生きていけるのだ。
変わり者。
私はかつて、そう言われた。
『梓咲ってさ、何か独特だよね。』
美術の授業で描いた絵を見て、クラスメイトに言われた。
その子が笑っていたから、私も笑うことに必死に勤めた。
悪気が無いことは分かっていても、私は何故か苦しかった。
独特。
何それ、普通じゃ駄目なの?
自分の絵をぐしゃりと、丸めて私は息を吐いた。
その夜、私の両親は夜間出勤していた。
医者であるから2人とも夜は家に居ない事が昔から多かった。
私はベランダに出て、洗濯した服を干す。
学校が終わって、家事も一通り終わった後だから気づけばもう、空は真っ暗だった。
あれは確か、12月。
私は人と会う予定も無いから緩いパーカーに短パンという、何とも季節感の無い服を着ていた。
当然、外は寒いわけで。
私は真っ白な息を吐いては震える手を抑えて、私より高い物干し竿に掛かったハンガーを取る。
「はぁ…。」
誰も居ない1人だけの家に、自然の溜め息が零れ落ちる。
……独特、ねぇ。
自分では分からないけど、私は普通じゃ無いのかなぁ。
ちょっとだけ、私は哀しくなる。
けれど引っ越したばかりのこの街に私の友達は居ない。
相談相手も居ない。
涙が出ないように、私は氷点下に近い寒さの中涙を拭った。
必死に、必死に、拭った。
そこに温度は無かった。
いつしか、下を向いて安心ばかりする自分に嫌悪を抱いた。
夜の深い闇に紛れるように、部屋の隅で踞る事が増えた。
相変わらず、私は1人浮いたままの存在だった。
それでも私は泣かないように、温い溢れだしそうな涙を拭って作り笑う毎日だった。
あの日は、少し空気が重くて。
お母さんが前夜の急患で運ばれた人の手術をしたそうで。
交通事故で、酷い量の血を全身に浴びた人の生命措置として。
お母さんはそこまで私に話して泣き出してしまった。
嗚咽と共に、言葉に出来ない程に顔を歪めて泣いてしまった。
……医者は、神様じゃないから。
総ての生命を救えるスーパーヒーローじゃないから。
そんな、冷たさと重さを持ち合わせた空間に私は今宵も1人で踞る。
何も無いフローリングをただ見詰める。
時間が進むのがやけに今日は遅い。
そんなあの日に私は出会ったんだ。
あの星が、強すぎる光で私を照らしてくれたんだ。
続く
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!