───────昼休み。
植物園に向かっている最中、白い玉がフワフワとゆっくり浮いているのに気付き、足を止める。何だこれ?と気になり、ついつい触りそうになるが、「触れては駄目ですよ」と背後から誰かに言われ、振り向く。
背後に立っていたのは、ゴーストに見間違いそうになるほど全体的に色素の薄い女性。
肌は生きてるのか?と聞きたくなるほどに白い。女性は俺の隣に立つと、白い玉を鷲掴みにし、手に持っていた袋に入れて、手持ち部分をギュッと縛った。
小声で「先に捕まえたいのは電気玉なんですがねぇ」と呟いていたが、俺にはその意味がさっぱり分からない。
随分と曖昧な答えだが、女性は「今の白い玉に電気が走っている個体を見かけたら、玉に触れずに教えてくれると有難いです。失礼します」とだけ言うと、颯爽とこの場から去って行った。
─────────食堂。
昼食を摂る為に食堂へ向かうと、犬猿雉を連れた一人の女性を目撃する。
案の定他の生徒達から注目されているが、本人は気にせずにおかずをとっている。お皿ではなくタッパーに。
後ろ姿しか見えないが、変わった服装をしており、髪はまるで銀水色の糸のよう。
女性はおかずをとり終えると、タッパーの蓋を閉め、猿と雉を連れて食堂から出て行く。
しかし、女性の後ろを歩いていた犬は販売されている期間限定の肉パンに気付くと、売店の前に立ち止まり、尻尾を振っていた。
女性と動物達は何事も無かったかのように再度食堂から出るが、周りの連中は「い、今の誰だ?」「女?」「動物が喋ったぞ」とザワついていた。
本当になんだったのかしら。
────────ミステリーショップ前にて。
ミステリーショップでの簡単な買い物を済ませ、店内からでる。出来ることならオルトに買い物を頼みたかったのだが、「たまには外に出なよ」とオルトに強く言われ、断れなかったのだ。言われてみれば、ここ最近はゲームのイベントに夢中になり過ぎて何時もより外出する数が更に減っていた。
拙者はそれでも構わないけど……。
ミステリーショップから学校内へと歩いている最中、一匹の猿がのんびり二足歩行でベンチがある方に歩いていくのが見えた。
後ろには犬と雉?を連れた女の人も居る。
女の人と動物達が当たり前のようにベンチに座るので、この学校はいつから女子も通えるようになったんだ?と変な錯覚をしそうになる。よく見れば、女の人は学生服ではないし、通っているわけじゃなさそうだ。
僕の視線に気付いたのか、白い犬が僕の方を見て「あー!」と声を上げる。
女性は僕を見ると、無表情ではあるものの、静かに頭を下げた。もしかして、謝罪の礼なのだろうか?とにかく、また変なことを言われる前に、僕はその場から逃げた。
─────────ベンチ近くにて。
食事を済ませ、人が少なそうなミステリーショップ付近にあるベンチで休もうとするも、ベンチには既に一人の女性と動物達が食事をしていた。確か、先程食堂に居た者達だ。
リリアも校庭で見かけたと言っていたし、この学校で何をしているのだろう。
僕はリリアと同様耳もいい。ベンチから離れた木の下で一時的に休むも、女性と動物達の会話が自然と聞こえてくる。
中々平和そうな会話にらしくもなくクスッと笑いそうになる。盗み聞きする気は無かったが、昼休みのこの場所は人もあまりおらず落ち着く上、離れていても声が聞こえてしまうから仕方ないとも言えるだろう。
疑問に思いながらも、次の授業の為に僕は立ち上がり、教室へと戻った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!