―ナムジュン視点―
ジミンが最近、よくノートに何かを書いているのは知ってた。
だけど、その中身を俺に見せたことはなかった。
「まだ完成してないから」
「恥ずかしいから」
そう言って、いつも笑ってごまかしてた。
けど、今日。
彼は何も言わずに、一冊のノートを俺に差し出した。
「ヒョン、…これ、曲にしてみた。」
ページをめくると、シンプルな言葉が並んでいた。
飾り気はない。でも、まっすぐで、優しい。
『春じゃなくても、あなたがいれば大丈夫』
『怖かった夜も、あなたの声が道を照らしてくれた』
『心が壊れたあの日、あなたが手を握ってくれた』
俺の中で、何かが静かに崩れた。
ジミンの声が、心の奥に届いた気がした。
この詩は――俺のことを歌っている。
それが、あまりにもはっきりと分かってしまって、思わず目を閉じた。
⸻
レコーディング室で、ジミンがその歌を歌った。
声は震えていた。
でも、どの音も、どの言葉も、真っ直ぐだった。
まるで「好きだよ」と言葉にする代わりに、
「君が必要なんだ」と歌っているようだった。
俺は、モニター越しに彼を見つめながら、
どうして今まで気づけなかったんだろうって思った。
いや、本当は気づいてたんだ。
ただ、それを「友情」って言葉で包み込んで、自分を守ってただけ。
でも今――
彼の歌に包まれながら、ようやく認められた。
俺は、ジミンが、愛おしい。
⸻
レコーディングが終わったあと、彼は控えめに笑って言った。
「変だったかな?」
「いや、すごくよかった。」
俺はそう答えた。でも、それだけじゃ足りなかった。
だから、一歩だけ、彼に近づいて、静かに言った。
「ジミン。…俺、この曲、すごく好きだよ。」
彼が少しだけ顔を赤らめて、視線をそらす。
「…よかった。」
その“よかった”の中に、どれだけの勇気が詰まってたんだろう。
俺は、そのままそっと彼の手を取った。
あの時、彼が震えていた指先。
今はあたたかくて、ちゃんと俺の手を握り返してくれた。
⸻
それは、まだ“告白”とは言えないかもしれない。
でも、この日、ふたりのあいだにあった境界線は――
確かに、ひとつ消えていった。
春の音は、もうすぐそこにある。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。