第4話

甘い毒液
8
2026/04/24 03:00 更新
待てよ!!」

バンッ! と音を立てて、颯太は流星の横からドアを力任せに閉めた。
驚いて目を見開く流星の腕を、強い力で引き寄せる。雨に濡れた流星の身体は氷のように冷たかった。

「勝手に終わらせるなよ。記憶がないんだ。お前に拒絶の目を向けた瀬戸颯太は、あの雨の夜に死んだんだよ」
「颯太……?」
「今ここにいるのは、お前が淹れてくれるコーヒーが好きで、お前が語ってくれる思い出話が好きで……お前の、その哀しそうな目をどうしようもなく愛おしいと思ってしまう、空っぽの俺だ」

颯太は、流星の冷たい両頬を両手で包み込んだ。
「お前が俺を騙してたなら、最後まで騙し通せよ。俺は、二度目の初恋をお前にしてるんだから」

沈黙が落ちた。雨音だけが、二人の間を埋めるように響き続ける。
「……いいのか。俺は、お前が思っているような優しい人間じゃないぞ」
地を這うような、掠れた声だった。流星の手が、ゆっくりと颯太の手首を掴む。その力は、骨が軋むほど強かった。

「一度手に入れたら、二度と手放さない。お前がまた記憶を取り戻して、俺を拒絶したとしても……もう二度と、逃がしてやらない。お前の全部を俺のものにして、閉じ込めて、頭がおかしくなるくらい溺愛して……お前を壊してしまうかもしれない」

それは、親友という仮面の下に隠されていた、狂気にも似た愛情の底だった。
だが、颯太の心に恐怖はなかった。むしろ、その重たくて暗い感情を向けられることに、背筋が粟立つような悦びすら感じていた。
「望むところだ。……壊れるまで、愛してくれよ」

その言葉が、最後の引き金だった。
流星が颯太を引き寄せ、乱暴に唇を塞ぐ。雨の冷たさと、微かな血の味が混じった、暴力的なまでに熱い口づけだった。

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