第5話

 愛して
50
2024/10/09 09:37 更新
ピピピ ピピピ ピピピ ……
目覚まし時計を止めると同時に、スマホを開く。
『明暗』というアカウントを開けば、そこには1万人近くのフォロワー。
みくらは小さく欠伸をすると、隣にいる姉に声を掛けた。
みくら
さく、おはよ。
さくら
…おはよう
 



























あなた、
はい、あーん♡
 
今日も君の作った
料理は美味しいなぁ
 
ヤダ、照れる//♡
 
食卓でいちゃつく母と父。
母は、みくらとさくらとは血が繋がっていない。
みくらとさくらが小学3年生の頃、母親は出ていき、父親は新しい女を連れて来た。
それが、今の母親だ。
 
みくら
いただきます。
 
母はみくらとさくらにちらっと目を向けただけで、何も言わない。
父は見向きもしなかった。
みくらは椅子に座って朝食を食べ始める。
さくらはいつものように牛乳だけを飲むと、部屋に戻ってしまった。
 


学校に行く準備をして、2人は家を出る。
未だに両親は食卓でベタベタし合っているので、居心地が悪い。
みくらにとって、家にいるよりも、学校の方が何倍も落ち着くのだ。
 





学校に着くと、みくらは音楽室に向かい、さくらは保健室に入っていった。
音楽室には、真姫まひめがいた。
 
みくら
真姫先輩、
おはようございます
 
真姫
あ、みくらちゃん
おはよ~
 
これから、合唱部の活動が始まる。
みくらも真姫も、歌が大好きだ。
 
みくら
先輩、これ、
作ったんですけど…
 
真姫
わあ、可愛い!
音楽室に飾っても良い?
 
みくら
はい…!
 
みくらは、手作りの、木彫りの小鳥を差し出した。
彫刻は、みくらの趣味。
昔から消しゴムはんこや、版画を作るのが好きだった。
こうして、作った彫刻物を合唱部の先輩に渡すと、音楽室に飾ってくれる。
それが、みくらにはすごく嬉しかった。
 



まだ部活が始まるまで時間があるので、みくらと真姫は他愛のない話をした。
 
みくら
なんか…真姫先輩
明るくなりましたね
 
言ったあとで失礼だったかもと焦ったが、
真姫は気にすることなく嬉しそうに笑顔を見せた。
 
真姫
やっぱりストーン屋の
おかげかな、
 
みくら
ストーン屋…?
 
みくらにとっては初めて聞く店の名前だった。
 
真姫
そう。星雲公園の近くにあるお店でね、
コーヒーとかが飲めるの。
 
みくら
カフェなんですか?
 
真姫
うーん、カフェっていうより…
みんなの「居場所」かな。
勉強してもいいし、雑談してもいい。
 
みくら
みんなの、居場所…。
 
みくら
初めて知りました。
 
真姫
おすすめだよ〜。
 
真姫が「ストーン屋」とやらで何を経験し、なぜ明るくなったのかはわからない。
それが逆に興味に繋がった。
それからまた話は様々な方向に飛び、
みくらの目線は、去年の合唱コンクールの写真に向けられた。
今の2,3年生が写っている写真だ。
 
みくら
…?
この人、誰ですか?
 
写真には、今はいない人が写っていたので、みくらは疑問に思った。
 
真姫
あぁ…、
翔都とと先輩っていう人なんだけど…
 
真姫
今は学校に
来てなくて
 
そう言って真姫は、困ったように笑うだけだった。
 


























みくら
数学疲れたー
 
さくら
……
 
いつも通りの学校生活を過ごし、放課後の部活も終わった。
みくらは、保健室から出てきたさくらと合流し、家路につく。
みくらがなにか一方的に話をして、さくらは基本無反応…というのが定番なのだが、
さくらは珍しく自分から口を開いた。
 
さくら
…最近また彩路いろ
話すようになった。
 
みくら
今まで仲悪かったんだっけ
 
さくら
うん。でも私が授業中図書室に
行ったら彩路がいたんだよね。
 
みくら
あぁ、そういえばあの子
図書室登校か、
 
さくら
彩路の兄もよく保健室に来るから、
そこにも繋がりがあって。
 
みくら
また彩路ちゃんと仲良くなれたの?
 
さくら
うん。昔ケンカして、それでずっと
彩路から嫌われてたけど、許してくれた。
 
みくら
おぉ~良かったね!
 
さくらは話しながら、久しぶりに笑顔を見せた。
 




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
カチャ
みくらが家の鍵を開け、二人は中に入る。
まだ家には誰もいないから、気が楽だ。
みくらはすぐに宿題を終わらせると、スマホを手に取りいつものSNSアプリを開いた。
いくつかDMが来ており、その一つにみくらは返信した。
 
あき
こんにちは、はじめまして!
ユーザー名、なんて読むんですか?
 
この質問は、よく来る。
アカウントのユーザー名は、「明暗」。
基本「めいあん」と読むだろうが、聞かれたときには素直に答える。
 
みくら
みくらです。
 
自分の名前はひらがなだ。
きっと、自分を産んだ母親が適当につけた名前…みくらはそう思っている。
だから、自分で漢字を考えて、SNSで使った。
表面上は「明」るいけれど、中身は「暗」い…。
雰囲気が出るし、自分の性格も表しているから、
みくらは自分で考えた漢字の名を気に入っていた。
 
あき
あの、、もしかして、
合唱部の中1の子…?
 
みくら
…?、!
急に言い当てられてびっくりした。
みくら
えっと…そう、です。


おそるおそる返信する。

あき
俺も同じ中学校!
音楽室の彫刻見てわかったんだ。


みくらはネットに彫刻物をアップしていたため、それで気づいたのだろう。

あき
彫刻うまいよね、
その…ずっと憧れてたんだ。


誰かに憧れているなんて言われたのは初めてで、ただ戸惑うばかり。
だけど、嬉しかった。

みくら
ありがとうございます…!
あき
あの、急なんだけど、
今度会ってみたくて…。
みくら
え…!?


星雲中の人だと相手は名乗っているが、本当なのかはわからない。
会うのは危険かもしれないが、信じたいという気持ちのほうが強かった。

みくら
では…「ストーン屋」で
会いませんか?


みくらは真姫に紹介された店のことを思い出し、提案した。
相手はストーン屋の存在を知らなかったようで、
場所を教えたり時間と日時を決めたりして、ネットでの会話は終わった。

みくら
楽しみだな〜


単調な学校生活と息苦しい家庭環境で疲れていたから、
「あき」という人との約束はとてもわくわくした。
 




しばらくして彫刻をしたいと思ったみくらは、彫刻刀を出そうとした。

みくら
…あれ?無い…


いつも机においてある彫刻刀が無い。

みくら
さく、彫刻刀借りた?



さくらに聞くと、ベッドでうずくまっていたさくらはビクッと肩を揺らした。

さくら
…ごめん、借りた。
明日返す。
みくら
…わかったー


いつも以上に元気がないさくらの様子が気になったが、

…おい風呂早く沸かせよ
おせーんだよ!馬鹿野郎!


帰ってきた父が苛立っているので、みくらは急いで風呂を沸かしに行った。

さくら
…ごめんね、みく


さくらは包帯が巻いてある左手首を、じっと見つめ続けた。
 
















みくら
…ここが、ストーン屋…?


あきとの約束の日。
地図を見ながらたどり着いたのは、「自由スペース きらり」という場所。
ストーン屋では無いのだろうか。

ことね
ここがストーン屋よ。
 
みくら
!!わ、びっくりした。
…こんにちは!
 
ことね
こんにちは、4人目の職人さん
 
声をかけてきたのは、ことねという人だった。
本当の店の名は「自由スペース きらり」というそうだが、
ここに来た者はみんな「ストーン屋」と呼ぶ。

みくら
真姫先輩に紹介されて
来たんです
 
ことね
あぁ、まひめちゃん…
懐かしいわ。元気かしら。
 
みくら
はい、とっても明るくなって…
ストーン屋に感謝していました
 
ことね
あら、嬉しい。


みくらとことねが話していると、星雲公園の方から誰かが歩いてきた。

あ…みくらちゃん!
 
みくら
…あきさんですか?
明希
そう、俺が明希あき
来てくれてありがとう!
 
初めて会う明希あきという人は、みくらの想像以上に整った顔立ちをしており、
イケメンながらも可愛らしい顔で、思わず見とれてしまった。
明希とみくらは店の中に入り、椅子に腰掛ける。
ことねはカウンターに行ってにこにこと二人の様子を眺めていた。
初対面の2人。
初めて入る店。
緊張する要素がたくさんあってお互いなかなか話始めなかったが、
明希は慣れてきたのか、彫刻の話題をみくらに持ちかけてきた。
そのおかげでみくらは緊張がほぐれ、自然に話すことができた。
明希は2年生で、みくらは1年生。
年の差はあるものの彫刻という共通の趣味があり、明希も話が上手なため、
今日初めて会ったとは思えないほど親しくなった。


明希
タメでいいよ、
あと、呼び捨てで呼んでよ。
 
みくら
あ……、うん、
明希、ありがとう!



長時間話してしまったため、2人は帰ることにした。
その数日後、また明希とみくらは待ち合わせをし、話した。
1週間後、1ヶ月後、何度も2人は会い、いろいろなところに行った。
こんな経験、みくらにとっては初めてで、本当に楽しかったし、落ち着いた。
みくらと明希は、どんどん親しくなっていった。
 









ある日のこと、みくらは今日もストーン屋で明希とおしゃべりをし、
今、家に帰ってきたときだった。
 
みくら
ただいま〜…
 
みくら
……?
 
何か、嫌な予感がした。
急いでリビングに行く。


お前……気持ちわりぃんだよ…ッ!
 
みくら
……っ!!
 
鈍い音がして、さくらが飛ばされるのを、みくらは見てしまった。
父に、殴られたのだ。
 
みくら
さくら、!!
さくら
……っ、
 
今までも、父がみくら達に暴力を振るうことはあったが、
人を飛ばすほどの威力で殴られたのは、初めてだった。
…何が、あったのか。
さくらを見ると、左手の包帯が取れ、傷が見えている。
 
中二病か?
気色悪いっつーの、
 
父は、さくらの自傷行為を目撃し、気持ち悪いと感じ、殴ったのだ。
…本当は、みくらも、さくらの自傷行為に気づいていた。
この前みくらが彫刻をしようと思ったときに彫刻刀が無かったのも、
さくらがリストカットのために使っていたからだった。
それでも、殴るのはおかしい。
 
お前もこいつと姉妹なら
しっかりしろよカス!!
 
父親は、みくらのことも殴った。
…もう、この家にはいられない。
 
みくら
…っ、さく、
逃げよう
 
みくらはさくらと一緒に、家から走った。
父親は興味を失ったのか、追いかけもしない。
走れ、走れ、
……ストーン屋へ。
 





ストーン屋には、まだ明希がいた。
走ってきたみくらと、それにそっくりな子を見て驚く。
ことねは、みくらとさくらを見て、珍しく慌てて、硬直した。
明希は、何かを察したのか、固まってしまったことねに



明希
ことねさん、みくらを、
奥の部屋に連れて行く!



そう叫んで、みくらをそっと誘導した。
みくらと明希が来たのは、店の奥の小さな部屋だった。


みくら
……ヒック
 
みくら
…助けて、
 
みくら
誰か、私を愛してよ…!



みくらの心からの叫びに、部屋はぽうっと東雲色しののめいろに光り、反応した。
光は強くなり、その光の色と同じストーンが、誕生する。
みくらは、泣いていて気づかない。
明希はそれに気づいたが、何も言わず、みくらをそっと包んだ。
 
明希
…俺は、好きだよ、
 
明希
みくらのこと。
 
みくら
…明希……ッ!!
 
みくらは涙を流し続け、
明希は、そんなみくらのことを、ずっと抱きしめていた。

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