校庭で練習するサッカー部の人たち。
学校のまわりを、陸上部が走っている。
野球部は、バッティング練習。
3階にある図書室からは、外の様子がとてもよく見える。
彩路は、図書室から眺める景色が大好きだ。
今日はサッカー部は練習試合のようだ、ビブスを着ている。
…ただ、両チームの色の見分けがつかない。
今どちらのチームがボールを蹴っているのか、どちらが優勢なのか…。
司書の浅江先生が、彩路の隣に来た。
こうしてわからない色があるたびに、あれは何色かと周りの人に聞く。
彩路は、色の識別が難しいとされる、色覚異常だ。
自分が色覚異常とわかったのは、小学3年生の頃。
図工の時間で彩路は、りんごやぶどうなどの果物の絵を描いていた。
彩路が桃の色を塗っていると、当時同じクラスだったさくらが、こちらを見て笑った。
彩路は、さくらが言っている言葉の意味がわからなかった。
桃は水色じゃないの? 私のなにがおかしいの?
彩路とさくらのやり取りを聞いていた担任の先生が、彩路を病院に勧め、
そこで色覚異常と診断されたのだった。
担任はクラスで、彩路の色の見え方は、他の人と少し違うということを説明した。
だが、そのときさくらが言った。
先生はさくらに注意した。
さくらは、謝らなかった。
もともと言い方のキツいさくらだったが、さすがに彩路も傷付いた。
さくらと彩路は、その日から友達をやめた。
彩路は浅江先生とのおしゃべりが大好きだ。
流れる時間を気にしなくていいから。
図書室登校という現実を、忘れられるから。
いつも通りの雑談。
浅江先生はチラシを出して、一つの店を勧めてきた。
ピンク色か水色かわからないが、優しい色合いのチラシだった。
彩路は、興味がわいた。
その店は学校からも遠くない距離だったので、
学校帰りに一人で寄ってみることにした。
地図に沿って歩き、辿り着いたのは、落ち着いた雰囲気の建物だった。
周りに家はなく、ここは、住宅街の外れといった土地だ。
彩路は扉を開ける。
カランコロン
ドアベルが、客の入店を告げた。
にこりと笑った店員は、自分をことねと名乗った。
彩路も自己紹介を促された。
さくらに名前のことでからかわれてから、
彩路は自分の名前に自信が持てなくなっていた。
色の見え方が変なのに、こんな名前を持っている資格はあるのか、と。
ことねが言う。
彩路が黙っていると、
店の奥の、小さな個室へと導かれた。
普段は素直になれない彩路も、
今回ばかりはこの話を信じ、行動してみようと思ってしまった。
そのくらい、ことねの言った内容は深く、魅力的だった。
ことねが部屋を出ていくと、彩路は、
さくらに対する不満、そして、ずっと溜め込んできた気持ちを吐露した。
一通り喋ると、彩路は晴れ晴れとした気分になった。
その瞬間、部屋は光でいっぱいになった。
目の前の机には、濃い色の石が現れた。
普段なら見分けづらい色だが、今日は色の判別ができた。
石は、紺色だった。
見えたというより、感じた。
彩路が石を見つめていると、ことねが来た。
それならば、これは早く捨てたほうが良い。
彩路は店を出て、近くの川に向かった。
ことねも着いてきた。
彩路は、川の中にストーンを投げた。
静かな空間に、ポチャン、という音が響く。
ストーンは、川の奥底に沈んでいった。
なんとも言えない満足感に浸る。
ことねはニコニコ笑いながら、返した。
彩路は、店を去った。
心も体も、軽くなっていた。
次の日、いつものように彩路は図書室へ来た。
浅江先生に、昨日の出来事を話す。
授業もしっかり図書室で受ける。
もう、色覚異常を勉強の遅れの理由にしたくないのだ。
図書室登校の理由は見つからない。
だから、もうすぐ教室に行けるかもしれない。
さくらが居たって、構わない。
もう、昨日までの自分とは違うから。
授業中なのに、誰かが図書室に入ってきた。
それは、
さくらだった。
なぜ授業中に?という疑問もあった。
前までなら彩路は、さくらを睨んで終わりだっただろう。
でも、今日は違う。
不満は全部吐き出せたから。
彩路は、さくらの方へ向かい、
会話の一歩を踏み出した。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。