第3話

第一章 放て! おれのサーチライト-2
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2019/10/04 01:42
   ☆★☆

 二限目の後の中休み。
 私はすることもなく窓際の席から外を眺めていた。
 五月の空は清々しく晴れ渡って、爽やかな風が木々の緑を揺らしている。
 今日この時間まで、私はまだ誰からも話しかけられていなかった。
 まあ、クラスでもだいたい仲良しグループとかできあがってる時期だもんな……みんな、転校生のことは気になるようなそぶりはあるんだけど。
 自己紹介の時にもっとちゃんと笑えればよかったかもだけど、生まれながらの不愛想。
 しかも、昨日からものもらいで右目に眼帯とかつけてるし。とっつきにくい奴と思われてるかなあ。
 思い切って、私から周りに話しかけてみる? でも、引かれちゃったら怖いしな……。
 ぐるぐると思い迷っていたら、不意に後ろから声をかけられた。
クラスメイトの女子
こんな時期に転校なんて珍しいね~
 振り向くと、クラスメイトの女子数名が笑みを浮かべていた。
 きたー! 救いの手。ありがとうございます!
 大事なファーストコンタクト、下手な対応はできないぞ。
聖瑞姫
聖瑞姫
そうなの。親の仕事の都合で……
 かすかな緊張を押し込めて、私は苦笑交じりに答えた。
クラスメイトの女子
右目、どうしたの?
聖瑞姫
聖瑞姫
ものもらいになっちゃって
 眼帯に覆われた右目をそっと触りながら、転校初日についてない、と内心ため息をつく。
渡瀬菜々子
そうなんだ~。早く治るといいね。私は、渡瀬菜々子。よろしくね
 ふわふわの長い髪の子に微笑まれて、ぱっと気持ちが明るくなった。
 菜々子ちゃん……癒し系っぽい可愛い子だ。仲良くなれたらいいな♪
 心の中ではファンファーレが鳴り響いていたけれど、感情が表に出にくい私は、かすかに笑みを浮かべて頷いただけだった。
 もっとフレンドリーに笑えたらいいんだけど……この強固な表情筋が憎い!
クラスメイトの女子
そうそう、新しい学校で不安だろうけど、なにかあったら言ってね
クラスメイトの女子
ね! 仲良くしよう。私の名前は……
 よかった、みんな優しそう……!
 気さくなクラスメイトたちの態度にホッとしながら、簡単な自己紹介を交わし終えたところで、校庭の方から男子の声が耳に飛び込んできた。
高嶋智樹
高嶋智樹
大和!
 なんとなく向けた視線の先、金髪の男子が蹴り上げたパスボールを、小柄な少年が、驚くほど高い跳躍とともに胸でカットした。
 そこから野田君は鮮やかなドリブルで、向かってくる何人もの生徒を躱し、いなし、切り崩し、ぐんぐんと敵側のゴールへと迫るやボールを蹴り入れる。
 シュートは、一歩も動けないキーパーの左上へ鋭く突き刺さった。
 おお……カッコいい。
 私はどちらかといえば運動は苦手。あんなふうに活発に身体を操れるのは憧れだ。
聖瑞姫
聖瑞姫
すごい上手だね。野田君ってサッカー部なの?
 感心しながら聞いてみたら、菜々子ちゃんは「ううん」と首を横に振った。
渡瀬菜々子
野田君はスポーツ万能だから運動部からは引く手あまただけど、全部断ってるらしいよ
 そうなんだ~、不思議。なにか事情があるのかな?

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