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第1話

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2024/06/22 13:53


向こうから白兎が走ってくる。


チョッキから時計を取り出す
白兎
白兎
大変だ!遅れてしまう!
この兎が特別時間にルーズなのか、


そもそも兎という種族自体時間を守ると言う能力に欠けているのか、

とにかく彼はいつもこの調子だった。



そもそも彼との最初の出会いの時も時間に遅れそうだったんじゃないかしら?

アリスは呆れながら白うさぎを眺めた。



と言っても、どれが最初の出会いだったのか、今ではもうはっきりとしない。


相当前のことだったからだ。

それ以前のことはもっと曖昧模糊あいまいもことしていて、殆ど思い出すことも出来ない。

なんだか、もっと退屈だけれども落ち着いた日常があったような気もする。
白兎
白兎
そこをどいてくれ、メアリーアン!時間に遅れそうなんだ!わかるだろ!
アリスが口を聞きかけた時、後ろから呼びかける者がいた
ビル
ビル
ねえ。合言葉を決めておこうよ
振り返ると、そこにいたのは蜥蜴とかげのビルだった。
アリス
アリス
合言葉?何のこと?
ビル
ビル
合言葉っていうのは、味方同士だってことがわかるための合図の言葉だよ
アリス
アリス
そうじゃなくて、どうしてそんなものが必要なのかって訊いているのよ
ビルは小首を傾げてしばらく考えてから答えた。
ビル
ビル
敵を味方だと間違えたら、まずいからじゃないのかな?
アリス
アリス
敵なんかどこにいるの?
ビル
ビル
さあね。でも見分け方はわかってるから、もしいたら簡単に見付けられるよ
アリス
アリス
見分け方がわかってるの?
ビル
ビル
もちろんだよ
アリス
アリス
どうやって、見分けるのか教えてくれる?
ビル
ビル
簡単さ。合言葉を言って、正しい答えを返してくれたら味方で、そうじゃなかったら敵なんだよ
アリス
アリス
まあ。そんなことだろうと思ったわ
ビル
ビル
そう。誰でも理解できるまっとうな理屈だよね
アリス
アリス
あなた、知り合い全員に今のと同じ話をしてるの?
ビルは首を振った
ビル
ビル
まさか、みんなに言ったら意味ないじゃないか。この話をしたのは味方にだけだよ
あら。ビルったら、わたしのことを味方だと思ってるの?
ビル
ビル
どんな合言葉がいい?
ビルが目を輝かせた。
アリスはなんとなく面倒そうだなと思った。
アリス
アリス
別に決めなくてもいいわ
ビル
ビル
どうして?
アリス
アリス
逆に訊くけど、なぜ決めなくちゃいけないの?
ビル
ビル
だって、決めておかなくちゃ、敵か味方か判断が付かないじゃないか
アリス
アリス
判断は付くんじゃないの?わたしは味方でしょ
ビル
ビル
だから、合言葉を決めておかなかったら、アリスが味方だとわからないじゃないか
アリス
アリス
じゃあ、敵でもいいわよ
ビルはぶんぶんと首を振った。
ビル
ビル
それは困る。アリスは味方だから
アリス
アリス
ほら。合言葉を言わなくたって、味方だってわかってるんじゃないの?
ビル
ビル
いいや。合言葉は味方と敵を判別するためのものなんだから、合言葉は絶対に必要なんだ
どうしてここの人たち(まあ、ビルは人じゃないけど)ってみんなこんなに面倒なのかしら?


本当にわかってない人と本当はわかってるけど悪ふざけを続けている人がいるけどね。

悪ふざけの人は面倒な時は無視すればいい。本当にわかってない人を無視するのは大人げない
問題は、その人がどっちのタイプかなんて簡単にはわからないってこと。

でも、ビルはなんとなく本当にわかってない方のタイプのような気がするわ。


だとしたら、ちゃんと相手してあげなくちゃいけない。
だけど、合言葉なんて本当に面倒だわ。

そうだ。いい言い訳を思い付いた。
アリス
アリス
合言葉を決めるのはまた今度にしましょう
ビル
ビル
どうして?
アリス
アリス
この子がいるから
アリスはポケットを指差した。
ビル
ビル
ポケットが言いふらすと思ってるの?そいつらはたいてい無口だから大丈夫だよ
アリス
アリス
ポケットの中身が問題なの
アリスはポケットの口を少し広げて見せた。
アリス
アリス
見える?
ビル
ビル
空気のこと?
アリス
アリス
もっとちゃんと見て。ここにいるでしょ
ビル
ビル
何か茶色い毛玉が入ってるけど。これのこと?
アリス
アリス
そうよ。
ビル
ビル
毛玉は喋らないよ
アリス
アリス
毛玉じゃないわ
ビル
ビル
さっき、アリスが毛玉って言ったよ
アリス
アリス
いいえ。言ってないわ。言ったのはあなたよ
ビル
ビル
僕は毛玉って言ったよ。そしてアリスは『そうよ』って言ったんだ
アリス
アリス
それは『毛玉』って意味じゃなくて、『ポケットの中身は毛玉みたいなやつ』ってことよ
ビル
ビル
じゃあ、『そうよ』じゃなくて、『違うわ』って言ってくれなきゃ
アリスは溜め息をいた。
アリス
アリス
違うわ。でも、ポケットの中身はそれよ
ビル
ビル
それって何?
アリス
アリス
毛玉みたいなやつ
ビル
ビル
アリスは毛玉みたいなやつに気を使ってるの?
アリス
アリス
そうね。ただの毛玉じゃないから
ビル
ビル
ただじゃない?じゃあ、いくらで買ったの?
アリス
アリス
買ってないわ。友達だから
ビル
ビル
友達から買ったって言った?
アリス
アリス
いいえ。友達から買ってないわ
ビル
ビル
じゃあ、非友達から買ったんだね
アリス
アリス
非友達からも買ってない。もしそういう言葉があったとしたらね
ビル
ビル
じゃあ、誰から買ったんだよ?
アリス
アリス
誰からも買っていないのよ
ビル
ビル
じゃあ、ただじゃないか
アリス
アリス
ただじゃないわ
ビル
ビル
言ってることの辻褄つじつまが合ってないよ
ビルが肩をすくめた。

アリスは深呼吸をした。
アリス
アリス
わたしは売り買いや買い値の話なんかしていないわ
ビル
ビル
だって、たった今『この毛玉はただ』って言ってたよ
アリス
アリス
ええと。これ以上、話しがこんがらがるといけないから、はっきりと説明すると、『ただ』っていうのはゼロ円て意味じゃなくて、『普通の』って意味よ
ビル
ビル
つまり、その毛玉は普通じゃないってこと?
アリス
アリス
毛玉としてはね。でも、眠りねずみとしては普通かしら?
ビル
ビル
眠り鼠?!なんで急にあんな訳のわからないやからの話をするんだ?
アリス
アリス
しっ!
アリスは口の前で指を立てた。
アリス
アリス
聞こえるわ。ポケットの中にいるんだから
ビル
ビル
なんてことだ!
ビルは大げさに頭を抱えた。
ビル
ビル
なぜ、そんな大切なことを秘密にしてたんだ
アリス
アリス
秘密になんかしていないわ。あなたが一々話の腰を折らなかったら、5分前には知ってたと思うけど
ビル
ビル
でも、まあ僕は気にしてないけどね。『訳の分からない輩』なんて悪口を言ったって、どうせ眠り鼠は眠っているんだから、気が付かないさ
アリス
アリス
でも、時々起きてたりするわよ
ビル
ビル
だいたい寝ている
アリス
アリス
それでも、いつ起きるかはわからないわ。だから今は合言葉を教えないで
ビル
ビル
眠り鼠が起きるのを待ってから合言葉を教えろってこと?
アリス
アリス
そうじゃなくて、眠り鼠に聞かれるかもしれないから、合言葉を教えないでってことよ
ビル
ビル
どうして、聞かれたらまずいんだい?
アリス
アリス
合言葉っていうのは敵と味方を区別するために使うもんでしょ
ビル
ビル
そうだよ
ビルは頷いた。
アリス
アリス
だったら、味方以外に知られちゃまずいんじゃない?
ビル
ビル
えっ?!じゃあ、眠り鼠は敵なのかい?どっからそんな情報を手に入れたんだ?
ビルは目を輝かせた。
アリス
アリス
そんな情報はないわ
ビル
ビル
じゃあ、ガセなのかい?
アリス
アリス
ガセじゃないわ。わたしは単に可能性の問題を言っただけよ
ビル
ビル
どんな可能性?
アリス
アリス
眠り鼠が敵に内通している可能性よ
ビル
ビル
こいつが?
ビルはしげしげと眠り鼠を見た。
ビル
ビル
内通者っていうのは、こんなにいつも眠りほうけているものなのかな?
アリス
アリス
居眠りと内通は関係ないわ。……でも、こんなに眠っていると、内通者らしいとは言いづらいかも
ビル
ビル
いい考えがある。こいつが眠っている間に合言葉を教えてしまえばいいんだ
眠り鼠
わたしは起きてるわよ!
ビル
ビル
今、一瞬だけ起きてすぐ寝たのかな
ビルがぽつりと言った
アリス
アリス
それよりも寝言だった可能性の方が高いかも
アリス
アリス
でも、起きていたという可能性も捨てがたいわよ
ビル
ビル
もっといい考えを思い付いた。『もっと』というのは、『こいつが眠っている間に合言葉を教える』といういい考えよりも、『もっと』いい考えということだ
アリス
アリス
あなたは凄い勢いでいい考えを思い付くのね
ビル
ビル
尊敬してくれてうれしいよ
アリスは、尊敬なんかしていない、と言おうかと思ったが、結局やめた。

どんどん不毛な会話の深みにはまっていきそうだったからだ。
アリス
アリス
それで、どんな考えなの?
ビル
ビル
眠り鼠を味方だと考えるんだ。そうすれば、合言葉を知られても何の問題もない
アリス
アリス
えっ?そんな簡単に信じるの?
ビル
ビル
君は眠り鼠のことを疑ってるの?
アリス
アリス
まさか
ビル
ビル
そうだろうね。僕もこいつを疑ってなんかいない。それに万がこいつが敵だとしても全然怖くなんかないだろ。だったら、仮に敵だとしても味方と何ら変わらないじゃないか
眠り鼠
見くびるな!
アリスとビルは無言で眠り鼠を見た。

目を瞑ったまま、すうすうと寝息を立てている。
ビル
ビル
ひょっとすると、たぬき寝入りなのかな?
アリス
アリス
狸寝入りしているのなら、わざわざ声を出したりはしないと思うわ
アリスは眠り鼠のせいにして合言葉の話題を避けるのがだんだんと馬鹿らしくなってきた。

こんなつまらないことで延々揉めるぐらいなら、早めに合言葉を聞いて、
さっさとビルを厄介払いした方がましだ。
アリス
アリス
わかったわ。眠り鼠はたぶん寝ているかもしれないし、万一聞かれたって何の脅威にもならない。今、ここで合言葉を教えて頂戴
ビル
ビル
よし。じゃあ、今から言うよ。一度しか言わないからよく聞いてね。……『一度しか言わない』って言い回し、前から使ってみたかったんだ。でも、どうして一度しか言わないんだろ?大事なことなら、3回ぐらい言えばいいのに
アリス
アリス
そうね。きっと3回も言うのが面倒なんだわ
ビル
ビル
なるほど。面倒だったんだ。これですっきりしたよ
アリス
アリス
面倒なことって本当に嫌だものね
ビル
ビル
そうかな?そもそも面倒なことってそんなにあるかな?
アリス
アリス
わたし今一つ思い出したわ
合言葉を教えたがっているけど、なかなか教えようとしない蜥蜴の話に延々付き合うことよ。
アリス
アリス
とにかく眠り鼠が味方だと考えるのは賛成よ。その合言葉とやらをさっさと行って頂戴
ビル
ビル
わかった。まず僕が『スナークは』って言うんだ。そしたら、君は……
アリス
アリス
『ブージャムだった』
ビルは目を見開いた。
ビル
ビル
どうして知ってるんだ?秘密が漏れてたのかい?
アリス
アリス
誰から秘密が漏れたというの?
ビルは眠り姫を見詰めた。

すうすうと寝息を立てている。
ビル
ビル
やっぱり狸寝入りだったのかな?
アリス
アリス
ええと。あなた、眠り鼠の前で合言葉を言ったことがあるの?
ビル
ビル
ああ。あるよ。正確に言うと、僕が言ったのは前半分だけで、残りは君が言ったんだけどね
アリス
アリス
それつっ、今さっきのこと?
ビル
ビル
覚えてないの?
アリス
アリス
覚えてるわよ
ビル
ビル
ああ。よかった。てっきり君の頭がおかしくなってしまったのかと思ったよ
アリス
アリス
それより前に言ったことは?
ビル
ビル
ないよ
アリス
アリス
ないの?
ビル
ビル
そうだよ。さっき初めて言ったんだ。それまでずっと僕の頭の中だけにあったんだ
アリス
アリス
だったら、眠り鼠を疑うのは筋違いだわ
ビル
ビル
だけど、僕が合言葉を教える前に君はもう合言葉を知ってたんだから、眠り鼠を疑う理由は充分だと思うけど
アリス
アリス
いいえ。眠り鼠は無実だわ
ビル
ビル
どうして、そう断言できるんだよ?
アリス
アリス
だって、わたしは眠り鼠から合言葉を聞いた訳ではないもの
ビル
ビル
そいつは驚きだ。じゃあ、裏切り者は誰なんだろ?
アリス
アリス
いるとしたら、合言葉を知っている誰かだわね
アリスはほとほと呆れていた。
ビル
ビル
合言葉を知っている誰か……君は合言葉を知ってたよね
アリス
アリス
わたしが裏切り者だと思うの?
ビル
ビル
そうなの?
アリス
アリス
いいえ。わたしは裏切り者じゃない
ビル
ビル
どうしてそう言えるの?
アリス
アリス
自分のことは自分が一番よく知ってるわ。わたしは裏切り者じゃない
ビル
ビル
他に合言葉を知っていた人は誰だろ?
アリス
アリス
一人しかいないわ
ビル
ビル
アリス
アリス
ビル、あなたよ
ビル
ビル
おお。それは気付かなかった!
ビルは額を押さえた。
ビル
ビル
僕が裏切り者だったなんて、全然気付かなかったよ
アリス
アリス
安心して、ビル。あなたも裏切り者じゃない
ビル
ビル
どうして知ってるの?
アリス
アリス
あなたは裏切り者のタイプじゃないからよ。それにあなたが裏切り者だったら、自分でそれを知っているはずよ
ビル
ビル
そうか。自分が知ってるんだ。じゃあ、自分に訊いてみればはっきりするじゃないか。……でも、どうやって自分に訊けばいいんだ?!
ビルはパニックになりそうになった。
アリス
アリス
大丈夫よ。自分で訊く必要なんかないから。わたしが訊いてあげる
ビル
ビル
ありがとう。助かるよ、アリス
アリス
アリス
ビル、あなたは裏切り者なの?
ビルは少し斜め上を見て考えてから答えた。
ビル
ビル
いいや。僕は裏切り者なんかじゃない
アリス
アリス
ほら。あなたは裏切り者じゃないわ
ビル
ビル
いや。まだ安心できないよ
ビル
ビル
僕は嘘を吐いているかも
アリス
アリス
あなたは嘘なんか吐いていないわ
ビル
ビル
どうしてわかるんだ?
アリス
アリス
もしあなたが裏切り者だとしたら、誰を裏切ったというの?
ビル
ビル
君?
アリスは首を振った。
ビル
ビル
僕?
アリス
アリス
あなた、自分が誰かに裏切られたような気がする?
ビル
ビル
それが全然なんだ
アリス
アリス
ほら御覧なさい
ビル
ビル
じゃあ、誰が裏切ったんだろ?
アリス
アリス
誰も裏切ってなんかいないわ
ビル
ビル
どうして、知ってるの?
アリス
アリス
だって、この国には人を裏切ったりできるほど、ちゃんとした頭の人は……
︎ ︎︎︎︎︎ハンプティ・ダンプティ
大変だぁ!
目の前を家来たちと馬たちが叫びながら駆け抜けた。
ビル
ビル
何?どうしたの?
アリス
アリス
王様の家来と馬たちが慌ててるということは答えは一つよ
ビル
ビル
誰が裏切り者かわかったのかい?
アリス
アリス
たぶんそうではなくて、塀から落ちたのよ
ビル
ビル
何が塀から落ちたの?
アリス
アリス
『何が』じゃなくて、『誰が』よ。たぶんここでは
ビル
ビル
どこ?
アリス
アリス
不思議の国
ビル
ビル
不思議の国?
アリス
アリス
この世界のことよ
ビル
ビル
君はこの世界以外の世界を知ってるの、アリス?
アリス
アリス
うん。知ってるんだと思うけど、そんなに自信はないわ
ビル
ビル
どういうこと?
アリス
アリス
ちゃんと思い出せないの。いや。思い出せないんじゃなくて、思い出せるけど、実感がないというか。向こうに行くと逆にこっちの世界の実感がなくなるんだけど
ビル
ビル
それで、誰が落ちたの?
アリス
アリス
本気で訊いてるの?
ビル
ビル
うん
ビルは頷いた。
アリス
アリス
王様の家来や馬が走っていったのに、知らないっていうのね
ビル
ビル
うん
ビルは頷いた。
アリス
アリス
ハンプティ・ダンプティ
ビル
ビル
誰?
アリス
アリス
ハンプティ・ダンプティを知らないの?
ビル
ビル
知ってるよ。知らないなんて、いつ言った?
ビルは少しむっとしたようだった。
アリス
アリス
じゃあ、様子を見に行ってみましょうよ
これで、今よりは少しだけ有意義な午後が過ごせるかもしれないわ。
ビル
ビル
ハンプティ・ダンプティはたぶんこっちだ
ビルは心当たりがあるのか、突然走り出した。
アリス
アリス
ちょっと待って
アリスも慌てて後を追う。
ビル
ビル
女王様の城の庭だ
ビルは走りながら指差した。

ビルの指の先を見ると、確かにぐしゃっと潰れた何かが飛び散っていた。

巨大な白い殻のようなものが見える。そして、赤黒い何か。

アリスはてっきり黄色いものが見えると思っていたので、少し驚いた。

まあ、そんなに驚くこともないわね。ハンプティ・ダンプティが無精卵だなんて誰が決めたの?

ハンプティ・ダンプティの周りには二つの人影があった。まあ、人ではないかもしれないけど、
とにかく人扱いするのがここの流儀だ。

近づくにつれ、それらの人影が三月兎と頭のおかしい帽子屋のものだとはっきりしてきた。

あら。あの人たちここで何をしてるのかしら?本当なら今頃は頭のおかしなお茶会を開いているはずなのに。
まあ、今頃も何も、あの人たちはいつもお茶会を開いているけど。

頭のおかしい帽子屋は巨大な虫眼鏡で、ハンプティ・ダンプティの残骸ざんがいを熱心に調べているところだった。

そして、三月兎はまるで頭がおかしくなったように、そこらを飛び跳ねていた。いや、おかしいのは間違えようのない事実だが。
アリス
アリス
あなたたち、そこで何をしているの?
頭のおかしい帽子屋
頭のおかしい帽子屋
見ての通り、犯罪捜査さ
頭のおかしい帽子屋は顔も上げずに答えた。
アリス
アリス
犯罪?ハンプティ・ダンプティが塀から落ちただけでしょ?だったら、事故だわ
帽子屋は顔を上げた。
頭のおかしい帽子屋
頭のおかしい帽子屋
いいや。ハンプティ・ダンプティは殺されたんだ。これは殺人事件だ

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