店内が女性客で賑わっている。これアカネちゃんへのドッキリじゃなかったっけ?指名、だのシャンパンタワー、だのワードが飛び交っているけどここホストじゃないからな。加えて俺とシディは厨房も回しているから体一つじゃ足りないくらいだ。ていうかブラックが厨房やれよ!お前料理バチクソ上手いだろうがよ!!何がオーナーだ現場を見ろ!!3日は一緒に寝てやんないからな(先に寝るのはあなたなので無駄な誓い)!!女性客の色目、甘え、……可愛いな(チョロい)。賑わいの中からシディの俺を呼ぶ声。厨房人足りてないかな。お客さんに一言入れて席を外し、背広を脱いでエプロンをつけながら厨房へ入る。
ゆうて家庭料理くらいしか作ったことがないからシディのように高級店のような料理は難しいが手伝うくらいならできる。時々ホールに出たりサービスをしたりしながら厨房を回す。め、目が回る…!けれど、ブラックやアカネちゃんも執事にまわり少し余裕が出た。……ブラックが言い寄られているのはあまりいい気はしないけど。何となくブラックのヤキモチがわかる。…今は仕事に集中だ。昼時をすぎ少しピークが去ったのか注文が疎になる。作り置きもあるし少し一息つけそうだ。キッチンにもたれかかり襟元を緩める。厨房の暑さにシャツが張り付いて気持ち悪いし汗ばんでベタつく。緩んだ首元から空気が入り汗を冷やす。涼しい気がして気持ちいい。
ブラックとアカネちゃんもお客さんの相手をしている。モブ男もモブ男なりに頑張っているらしい。清掃とか…。他にお客さんはいないしこっそり厨房で休憩を取るか。冷蔵庫から小さいボトルの冷えたスポーツドリンクを取り出しシディの頬に当てる。驚いた顔がどこか幼いものだから笑ってしまった。
キャップを開けて口をつける。爽やかな甘味と酸味。冷たさが喉から胃に降りていくのを感じる。美味しい、冷たさに微かな頭痛を覚えながらも嚥下が止められず半分も飲み干してしまった。
ぬらりと影が降りる。シディが立ち上がって俺を見下ろしている。対して俺はしゃがんでいて。タッパあるから圧迫感がすごい。距離を詰めてしゃがまれればより圧を感じて。ボトルを握った手を掴まれる。反対の手も同様に。、怖い。何、強い眼差しに逸らせない。顔が近づく。また噛まれる?いやでも、この角度、迫り方、額じゃない。薄く開く口から犬歯が覗く。唇に吐息がかかる。
一瞬の出来事。裏口からカゲチヨがシディの手を引き外へ連れ出す。店内の微かな談笑が厨房へ届く。静かさにようやく気づく。心臓がバクバクと痛いほど胸を打つ。背中や腕が汗でひどく濡れている。暑さじゃない、冷や汗。固唾を呑んでゆっくり息を整える。微かに震える手を押さえて残ったドリンクを口に含んだ。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。