第4話

強く生きる君
1,521
2023/03/07 03:00
 
岸くんを好きになって数週間が経った。
あれから岸くんに自分という存在を覚えてもらうために毎日のようにカフェを通った。
最初はただ普通の客として接していたけれど、常連となれば岸くんも俺を覚えてくれて接客の間に会話をする仲になった。

そして俺の努力が報われ、岸くんの連絡先をゲットすることができた。

毎日できるわけではないけれど、それでも岸くんの生活に俺という存在がいるって思うと嬉しくて仕方がない。



そして今日は俺が夢にまで見た岸くんとデートの日!!

今までの人生で1番緊張して1番楽しみにしている。
浮かれすぎて秘書さんから注意され、企業さんからはなにかいいことがあったのかと聞かれた。
浮かれに浮かれきったけれど仕事は仕事。
ちゃんとやることはやる。
秘書さんはそれを分かっているから注意だけで済ませてくれた。本当ならめちゃくちゃ怒られてもおかしくない。


でも、今日は仕事のことは忘れられる!
1日岸くんと一緒の時間を満喫するぞ!!

平野紫耀
平野紫耀
早く着きすぎた·····。
まだ集合時間の1時間前じゃん。
岸優太
岸優太
紫耀さん!
平野紫耀
平野紫耀
え、岸くん!?
早いね!
岸優太
岸優太
紫耀さんこそ!
おはようございます!!
平野紫耀
平野紫耀
うん、おはよう。
岸優太
岸優太
じゃなくて、えと、今日のことなんですけど·····。
平野紫耀
平野紫耀
もしかして用事できちゃった?
岸優太
岸優太
実は弟が熱を出して·····。
看病しないといけなくなりまして·····。
ほんっとうにすみません!!
平野紫耀
平野紫耀
いいよいいよ。気にしないで。
また別の日に出かけよう。
岸優太
岸優太
それで!あの、お願いがありまして·····。
平野紫耀
平野紫耀
お願い?
岸優太
岸優太
妹の世話をお願いしたいんですが·····。
平野紫耀
平野紫耀
え、岸くん弟と妹がいるの!?
岸優太
岸優太
は、はい。
弟に手一杯で妹に相手してあげれなくて·····。
もし、紫耀さんがよろしければ妹の相手をしてもらってもいいですか!?
平野紫耀
平野紫耀
全然いいけど·····。
むしろ俺でいいの?
岸優太
岸優太
はい!よろしくお願いします!
平野紫耀
平野紫耀
·····わかった!
じゃあ早く帰ろ!2人とも待ってるよ!
岸優太
岸優太
はい!


岸くんとデートできなかったのは少し残念だけど、岸くんの家にいけるし、家族に会えるなんて嬉しすぎる!!

岸くんに良い印象をもってもらえるように頑張るぞ!

 
岸優太
岸優太
ここが俺の家です。
汚いですけどどうぞ。
平野紫耀
平野紫耀
·····お邪魔します。


汚いというか·····ボロくない?
え、ここに住んでるの?この古い感じのアパートに?いや、失礼なことだけどさ、それでもえ?ってなるよ?

てか玄関も狭いな·····。
俺の家がデカすぎるのもあるかもしれないけどこんなにも狭い玄関は初めてだよ。

·····あれ?靴少なくない?
岸くんの靴と小さい靴が2つだから、弟さんと妹さんのなのは分かったけど親の靴は?仕事だから無いのか?

あ、お兄ちゃん!
お帰りさない!
岸優太
岸優太
ただいま。
良い子にしてた?
うん!
·····その人だあれ?
岸優太
岸優太
この人は俺のバイト先の常連さんだよ。
今日はお前と遊んでもらう為に来てもらったの。
平野紫耀
平野紫耀
初めまして、平野紫耀です。
よろしくね。
よろしくお願いします!
岸優太
岸優太
それじゃあ紫耀さん。
俺は隣の部屋にいますので、なにかあったら呼んでください。
ちゃんと紫耀さんの言うこと聞くんだぞ。
はーい!


岸くんが隣の部屋に行ったのを確認してから俺が今いる部屋をぐるっと見渡した。

うん、ボロい。
汚いと言っていたけれど物が散らかっているとか、掃除していないとかでは無さそうだ。
むしろ、ちゃんと掃除もされているし綺麗な部屋だ。
ただボロい。このアパートがボロい。そして狭い。
本当にここに家族で住んでいるのか疑ってくるレベルだ。

ねぇねぇ!なにして遊ぶ?
平野紫耀
平野紫耀
あー、えっとその前に聞きたいことがあるんだけど。
なぁに?
平野紫耀
平野紫耀
ここには誰が住んでるの?
私とお兄ちゃんと弟の3人だよ!
平野紫耀
平野紫耀
·····え?


3人?

平野紫耀
平野紫耀
お父さんとお母さんは?
うーん、知らない!


·····どういう事だ?
知らないってそんなことあるはずない。
岸くんの家系はどうなっているんだ?

平野紫耀
平野紫耀
そっか·····。
ごめんね、変なこと聞いて!
さっ、遊ぼっか!
 
 
岸優太
岸優太
すみません、紫耀さん。
ずっと妹の相手をしてもらった上に寝かしつけもしてもらって·····。
平野紫耀
平野紫耀
全然大丈夫だよ。
妹さん、すごく良い子にしてたよ。
寝顔も可愛いしね。
岸優太
岸優太
ふふ、そうですね。
2人の安心した顔を見ると俺もすごく嬉しいんです。
平野紫耀
平野紫耀
ねぇ、岸くん。
聞きたいことがあるんだけど。
岸優太
岸優太
なんでしょう?
平野紫耀
平野紫耀
岸くんの親御さんは今どうしてるの?
岸優太
岸優太
·····いません。
平野紫耀
平野紫耀
え?
岸優太
岸優太
俺の親は交通事故で亡くなりました。
平野紫耀
平野紫耀
·····!


そんなことがあったのか·····。
仏壇が無かったから気づかなかったけど、たしかに言われてみればそうかもしれない。この部屋にあるのはすべて3人分のものだけ。冷蔵庫を見させてもらった時も最低限の食材しかなかった。
全部3人でまかなえる物しかここにはない·····。

岸優太
岸優太
·····弟と妹がまだ小さい時です。
きっと2人は親の顔を覚えていない。それぐらい昔のことなんです。
·····あの日は俺の誕生日でした。お父さんもお母さんもその日は仕事で急いで帰るって言ってたんです。そしたら事故にあって、·····即死だったそうです。
平野紫耀
平野紫耀
·····岸くん。
岸優太
岸優太
仏壇も置いてあげたいけれどこの家に置けるスペースはありませんし、そんなお金なんて無い。
この家だって俺が何個もバイトを掛け持ちしてやっと払えてるんです。


思っていた以上の辛い記憶。
俺もお父さんと言える人はいないけれど、お母さんと秘書さんがいたから寂しい思いはしなかった。
けれど、岸くんはどうだろう?
自分の誕生日に大切な人が2人同時に無くした。
幼い兄弟を養うために毎日バイトをして生活を安定させている。
昔も今もずっと辛い生活を送っているのだろう。

岸優太
岸優太
すみません、こんな話して。
平野紫耀
平野紫耀
ううん、むしろ話してくれてありがとう。
岸くんのこともっと知りたいからさ。君からそんな話をしてくれて俺は嬉しいよ。
辛い過去も今も全部1人で抱えて生きている君は強いね。
岸優太
岸優太
紫耀さん·····。
平野紫耀
平野紫耀
だからね、俺は君の拠り所になりたいんだ。
岸くんが抱えてきた辛い過去を俺も一緒に背負いたい。辛い時、泣きたい時は俺を頼って。俺が岸くんの全部を受け止めてあげるから。
岸優太
岸優太
··········じゃあ、
平野紫耀
平野紫耀
うん?
岸優太
岸優太
抱きしめてもらっても·····、いいですか?
平野紫耀
平野紫耀
もちろん、おいで。岸くん。


ぎゅっと抱きしめた岸くんの体はとても細かった。近くで顔を見れば薄らと隈がある。ずっと1人で頑張ってきたんだろう。兄弟たちに寂しい思いをさせないために強く生きるために。必死だったんだろう。

平野紫耀
平野紫耀
大丈夫だよ。岸くん。
俺がそばにいるからね。
岸優太
岸優太
·····ありがとう、ございます。


ぐすっと鼻を啜る音に気付かないふりをして俺は岸くんの丸い頭を撫でる。

まだ昼前だけれど早いお昼寝をしてもいいかな、なんて思ってしまう。


 

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