閉じていた瞼をゆっくりと開ける。
こんなに寝たのはいつぶりだろうか。
溜まりに溜まっていた疲れが一部溶かされたような気分だ。外を見るとすでに真っ暗で窓越しに寝起きの自分が写っている。
ぼーっとした頭で寝る前の記憶を思い出す。
たしか···紫耀さんが家に来て妹の相手をしてもらって、俺は弟の看病をして·····ん?
紫耀さん·····?
まずいっ!まずいっ!!
お客さんが家に来ているのに寝ちゃった!!
ていうか、妹のご飯も弟の看病もあるのに!!
バイトは!?あ、今日は全部休みか···。よかった·····。
じゃない!!早くご飯作らないと····ッ!!
キッチンの方を見るとエプロン姿の紫耀さんが立っていた。
イケメンはなにを着ても似合うんだな·····。
じゃなくて!
あいつが手伝いか·····。
俺は多忙すぎる生活で手一杯だったから妹のそういった気遣いに気づいてやれてなかったな·····。
机に並べられた美味しそうなご飯たち。
白米、味噌汁、唐揚げ、サラダ。
ちゃんと栄養まで考えられている。
美味しそうな匂いにお腹が音をたてる。
まずは一口。
本当に美味しい·····!
懐かしい味というか親の味みたいな感じだ。
昔、まだ親が生きていた頃に作ってもらった唐揚げの味と同じだ。またあの味に出会うことができて感動して涙が出そうだ。
気を抜いたら本当に涙が出てしまう。
紫耀さんの温かい声に涙腺が崩壊する。
頬に流れる涙を誤魔化すように口いっぱいにご飯を詰め込む。
美味しいご飯の味だったのに、今はとてもしょっぱい。しょっぱくて、でもやっぱり美味しくて。
流れる涙は止まることをしらない。
紫耀さんに頭を撫でられて不思議と安心する。
紫耀さんの顔をチラッと見ると、本当に優しい眼差しで俺を見ていた。
それが恥ずかしくて目線を唐揚げにもっていく。
本当に、どうして彼の前だとこんなにも心臓がうるさいのだろうか。
こんな感情は味わったことがない。
恥ずかしいけど、でも嬉しいって思う自分がいる。
この感情がなんなのか。
鈍感な俺にはまだ分からなかった·····。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。