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第1話

事は始まる
246
2023/09/23 07:28
エウリュディケ荘園。それはハンターとサバイバー、又の名を狩る者と狩られる者に別れ、生死を賭けた
''ゲーム''を行う場所である。普段、彼等は決して相容れぬあいいれぬ存在であり、敵対関係を強いられていた。慈悲深い者もいれば、浅ましいものもいる。彼等は別々の居館で生活し、試合でしか会うことは許されていない。

そんな彼らが唯一顔を合わせることが出来るのは、荘園周年記念の祝賀会である。その日だけはハンターとサバイバー、普段憎み合う者同士であっても、一時休戦し、共に祝うのだ。

そして今年。それはハンター館での開催になり、彼等はその準備に追われていた。
外はすっかり暗くなり、雪がちらついている。毎年、イヴの前日に行うためか広間の中央には巨大なツリーと共に、焼き菓子や赤い輝く林檎などの数々のオーナメントが飾られており、なんとも豪華な装飾である。広いテーブルに設置された数々の料理を見て、ナワーブ・サベダーは目を輝かせた。

「ローストビーフやシチュー、それにグラタンまで…。どれも美味そうだ…」

すっかり腹がぺこぺこになった頃。サバイバー達はハンター館に招き入れられ、その圧倒的な迫力に魅了されていた。それこそ、料理もそうだが広間の中央にはワイン樽が幾つもあり、その周りには酒瓶やウイスキーボトル等がずらりと並んでいる。流石は荘園主だ。なかなか良いものを揃えたらしい。ワインジョッキが暖炉で燃え盛る炎を映し出し、ゆらりと揺れた。後からソワソワした様に広間に入ってきた仲間達も、歓声を上げる。
「こんなに豪華なら毎日あればいいのになァ」
ナワーブと同様、口から溢れ出す涎を拭いぬぐいエリスがポツリと言った。「馬鹿、それじゃありがたみがないだろ」と隣にいたセルヴェに小突かれ、会場は暖かい空気に包まれた。

「じゃあ皆さん!かんぱーい!」


その声を聞き、それぞれグラスに注がれた飲み物を飲み干す。甘く、それでいて繊細な味わいが喉を通る。
「美味い!」
ナワーブは夢中でローストビーフやら何やらの皿に手を伸ばし、口に放り込んでいく。多少下品ではあるが、誰も咎めるものはいない。皆、久しぶりの豪華な食事に夢中なのだから。普段口を交わさないハンターとサバイバーも、今日ばかりは休戦だ。
シャンパンを飲み交わし、談笑する。あちこちから笑い声や、談笑が聞こえ、広間はまさにお祭り騒ぎだった。普段はクールで、あまり人と話さないと思っていたような仲間も声を上げて笑っている。確かに、毎日こんなことがあれば楽しいのにな、とナワーブは思う。

ふと、ナワーブの視界は窓の外の美しい雪景色を映し出す。
ここの荘園では、四季により様々な景色を楽しむことができる。年中あまり気温が変わらない土地に住んでいたナワーブにとって、荘園はとても新鮮だった。薄いガラスの壁は火照った顔でぼんやりと外を眺めるナワーブの顔を反射した。
既に時計の短針は1時を示しているが、広場は盛り上がっている。

夜はまだ、始まったばかりだ。

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