自覚してしまった感情は、もう誤魔化しが効かなかった。
薫の顔を見るたびに胸がうるさく鳴り、まともに目を合わせることすらできない。
男同士として学園生活を送っている薫に、そんな気持ちをぶつけたら、今の関係すら壊れてしまう。
俺は湧き上がる想いを必死に押し殺しながら、放課後の校舎を歩いていた。
背後から聞き馴染んだ声が響き、パタパタと走り寄ってくる足音が聞こえる。
振り返ると、薫が大きな資料の束を抱えて、階段を駆け下りてくるところだった。
俺が注意しようとした、まさにその時だった。
足を踏み外した薫の身体が、宙に浮く。
重力に引かれ、階段の上から真っ直ぐ俺に向かって落ちてくる。
考えるより先に、身体が動いていた。
俺は両手を広げ、倒れ込んでくる薫の身体を正面から強く抱きとめた。
ドスン、と激しい衝撃が胸に走る。
二人分の体重を受け止め、俺は背中を壁に打ち付けた。
俺の腕の中に収まった薫は、小さく縮こまったまま身動き一つしない。
安堵の息を漏らそうとした瞬間、手に伝わる感触に、俺の思考が完全にフリーズした。
呆然としていると、腕の中で薫の身体が跳ねるように強張った
ゆっくりと顔を上げた薫の顔は、耳の先まで真っ赤に染まっていた。
大きな瞳には涙が浮かび、キュッと結ばれた薄い唇が細かく震えている。
蚊の鳴くような、消え入りそうな声。
俺の心臓が、今までで一番激しく暴れ出す。
問いかけようとした俺の手を振り払うようにして、薫は僕の腕から飛び出すと、落ちた資料もそのままに、逃げるように階段を駆け下りていった。









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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!