その日の夜、お兄と帰路に着いた。
お兄と帰るのは始めてだったから、変な感じがした。
勘の鋭いお兄にはバレてしまってるだろうけど、
少し動揺した。
自分がどちらを好きだ、とか。
付き合いたい、だとかの欲望がなさすぎるから。
まず原点で、私と一緒にいて楽しいのか、とか
考えてしまう私も私で。
多分、恋愛には不向きな私なんだと思う。
きっとすぐに周りの視線を気にして
逃げて、繕って、
何者でもない私を造ってしまうから。
意外だった。
いつも飄々としてるお兄が、
誰かを 頼 る なんてことはしなさそうで。
やっぱり、KZのみんなは多分正義で。
間違ってはないけれど私には真っ直ぐすぎて。
正しさの塊で、ちょっとイケナイこと。
いっつもそうやって、
誰かを堕としていくんでしょう?お兄。
翌朝起きると、母親の作った朝食を食べて、
すぐに家を出た。
家に居たくなかった。
でも、学校にも居場所なんてなかった。
けれど、独りになりたくて、誰かにそばに居てほしいような、
そんな朝だった。
ジャスミンティーを渡しながら言う。
私は冷房の効きすぎたところにいるのが苦手だから、
いつも温かい飲み物を用意している。
皮肉にも、母親が準備したものだけど。
2人で歩きながら、若武さんが他愛もない話をする。
それに相槌を打ちながら、内心とても助かっていた。
独りにしないで欲しい、と言う願いを、
叶えてくれたのだと、神様に想った。
そう言ってくるりと、こちらに向き直る若武さん。
いつになく真剣な目をしているので、何事かと思い、
見つめ返す。
思わず素っ頓狂で変な声が出てしまう。
急に真面目な顔して、ふざけたことを言うから。
それでも、私の心には、
彼だけが、居るんです。
そう、はっきりと自信を持って言えるようになるには、
どれだけかかるのか、測り知れなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。