第32話

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221
2024/04/09 09:00




その日の夜、お兄と帰路に着いた。


お兄と帰るのは始めてだったから、変な感じがした。





(なまえ)
あなた
お兄ってさ、アーヤのこと好きなの?
黒木貴和
黒木貴和
なんだよ、急に
(なまえ)
あなた
別に…?
思っただけ。
黒木貴和
黒木貴和
っていうあなたの下の名前は、はっきりしろよ
(なまえ)
あなた
え?
黒木貴和
黒木貴和
元カレか、今好きなやつか
(なまえ)
あなた
…どちらも恋愛感情ではないから
黒木貴和
黒木貴和
ふうん



勘の鋭いお兄にはバレてしまってるだろうけど、

少し動揺した。


自分がどちらを好きだ、とか。

付き合いたい、だとかの欲望がなさすぎるから。



まず原点で、私と一緒にいて楽しいのか、とか

考えてしまう私も私で。


多分、恋愛には不向きな私なんだと思う。



きっとすぐに周りの視線を気にして

逃げて、繕って、

何者でもない私を造ってしまうから。


(なまえ)
あなた
どうやったら、お兄みたいになれる?
黒木貴和
黒木貴和
俺にはならない方がいい
黒木貴和
黒木貴和
面倒くさい
(なまえ)
あなた
自己完結したい、
誰にも頼らず生きてみたい
黒木貴和
黒木貴和
俺は、KZには頼ってるよ
(なまえ)
あなた
アーヤにも?
黒木貴和
黒木貴和
ああ、アーヤにも


意外だった。

いつも飄々としてるお兄が、

誰かを 頼 る なんてことはしなさそうで。


やっぱり、KZのみんなは多分正義で。

間違ってはないけれど私には真っ直ぐすぎて。


正しさの塊で、ちょっとイケナイこと。







(なまえ)
あなた
ありがとう、おやすみなさい
黒木貴和
黒木貴和
お休みあなたの下の名前、いい夢を


いっつもそうやって、

誰かを堕としていくんでしょう?お兄。







翌朝起きると、母親の作った朝食を食べて、

すぐに家を出た。


家に居たくなかった。

でも、学校にも居場所なんてなかった。


けれど、独りになりたくて、誰かにそばに居てほしいような、

そんな朝だった。





若武和臣
若武和臣
よっ!
(なまえ)
あなた
若武、さん…?
若武和臣
若武和臣
あなたの下の名前は朝早いからな、
4時からここにいたんだぜ?
(なまえ)
あなた
4時、ですか
(なまえ)
あなた
温かいジャスミンティー飲みますか?
若武和臣
若武和臣
おっ、くれんの?
若武和臣
若武和臣
サンキュ
(なまえ)
あなた
はい、待っててくださりありがとうございます


ジャスミンティーを渡しながら言う。

私は冷房の効きすぎたところにいるのが苦手だから、

いつも温かい飲み物を用意している。


皮肉にも、母親が準備したものだけど。



(なまえ)
あなた
どうして、分かったんですか?
(なまえ)
あなた
私が、不安だってこと
若武和臣
若武和臣
何となく。
黒木もそんなタイプだから
(なまえ)
あなた
お兄が……。
若武和臣
若武和臣
がっこ行くには早すぎるし、
どこで時間潰そうと思ってたんだ?
(なまえ)
あなた
公園です。
蟻がたくさんいるんですよ
若武和臣
若武和臣
蟻?!
(なまえ)
あなた
2割ほど、働かない働き蟻が居るそうです
若武和臣
若武和臣
小塚か
(なまえ)
あなた
はい



2人で歩きながら、若武さんが他愛もない話をする。


それに相槌を打ちながら、内心とても助かっていた。


独りにしないで欲しい、と言う願いを、

叶えてくれたのだと、神様に想った。


(なまえ)
あなた
神様は居るんですね
若武和臣
若武和臣
は?
イエス・キリストってことか?
(なまえ)
あなた
この話は上杉さんとすることにします
(なまえ)
あなた
彼、幼稚舎がキリスト教主義だったらしいです。
若武和臣
若武和臣
へー
(なまえ)
あなた
あ、興味ないですよね…。
すみません
若武和臣
若武和臣
いや別に、平気



そう言ってくるりと、こちらに向き直る若武さん。

いつになく真剣な目をしているので、何事かと思い、

見つめ返す。



(なまえ)
あなた
若武さん?
若武和臣
若武和臣
なんで敬語に戻ってるんだ?
(なまえ)
あなた
いいんですよ、でも”信頼”はしてます。
若武和臣
若武和臣
…なあ、あなたの下の名前。
俺と付き合わない?
(なまえ)
あなた
はぁ??



思わず素っ頓狂で変な声が出てしまう。

急に真面目な顔して、ふざけたことを言うから。



若武和臣
若武和臣
アーヤは照れて付き合ってくれない訳
(なまえ)
あなた
そうなんですか
若武和臣
若武和臣
で、あなたの下の名前、付き合わないか?
(なまえ)
あなた
自信たっぷりなところは、いいことだと思います
(なまえ)
あなた
嫌いではないですよ




それでも、私の心には、

彼だけが、居るんです。


そう、はっきりと自信を持って言えるようになるには、

どれだけかかるのか、測り知れなかった。






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