救急車の赤いランプを見ながら想う。
隣で何を考えているのかわからない彼を。
彼が呼んだのはかつてのニックネーム。
私が彼につけてもらった、渾名。
小刻みに震え始める私の肩を抱きしめて、
何度も自分の呼吸と合わせてくれる。
そう言ってニカッて、効果音がつきそうな
優しい笑顔を見せてくれる。
こんな笑顔が大好きで、
大嫌いだった。
明るいと言うより、透き通ってるような笑顔は、
眩しかったから。
家に強盗が入った時、
小塚くんが襲われた時、
いじめられた時、
傷ついた時、
全部全部 ” 上杉和典 ” に助けを求めた。
「 怖い 」「 無理 」「 苦手 」「 逃げたい 」
「 死にたい 」「 生きたい 」「 どうして私が 」
その言葉を、全部1人で呑み込んでた。
だけど、誰かを頼ることの難しさを教えてくれたのは、
和典くん。
でも、その代わりに安心できる仲間を持つことができると、
教えてくれたのも和典くん。
そのうちに、私は和典くんの肩にもたれて
寝てしまったみたいで、
起きたのは、お兄の腕の中だった。
病院の廊下でうずくまって泣く私と、
それをただ黙って見てるお兄。
側からみたら、どんな景色なんだろうと、
冷静に考える自分がいて。
何回も思ってきた疑問も、
信頼も、諦めも、その二つをする労力もどうでも良かった。
病院の廊下のライトに反射するみんなは、輝きを持っていて
とても綺麗だと思った。
やっと敬語を外したあなたの下の名前ちゃんは、
どうなるんでしょうか?!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!