第4話

任務 《参》
875
2024/07/13 08:18
<冨岡side>
冨岡義勇
っ!!
竈門炭治郎
義勇さん!!
しくじった。
目の前にいる鬼以外にも鬼がいる、とわかっていながら、その鬼の攻撃を避けることができなかった。
すぐさま呼吸で止血を試みるが、かなり深いのか、なかなか血が止まらない。
折れているのではないか、と腕に力を入れる。
案の定、腕に上手く力が入らず、軽く痙攣しただけだった。
もう、右腕は使えない。
俺の庇っていた男が、俺の出血量を見て顔色を悪くする。
やるなぁ。
俺を切った鬼は、手に鉈を持っていた。
その男を庇いながら、俺の攻撃を避けたなぁ。
その通りだが、微かに身動ぎすることしかできなかった。
腕を切り落とすつもりだったんだけどなぁ。
鬼の話もほどほどに、炭治郎の方をチラリと見ると、刀は構えているが視線はこちらに向いていて、もう任務どころじゃなくなっている。
はぁ、と小さくため息を吐いて、俺は左手に刀を持ち直し、先程よりも更に速く斬り込んだ。
ギャァァッ!
最初は弱い方の鬼から。
そして、俺を切った鬼の後ろに回り込み、斬る。
もう少しで頸を斬れそうだったのに、避けられてしまった。
やはり片腕では本来の力を発揮できない。
冨岡義勇
水の呼吸 肆の型 打ち潮
俺の青い刀身が水の幻影を帯び、うねりながら鬼に襲い掛かる。
ガァァァァッ!!
鬼の両腕を斬り落とし、上半身を深く斬った後、本命の頸を狙い、一気に斬り落とした。
鬼は塵となって消えてゆく。
骨も残らない。
それを眺めながら、俺は山の全体に気を配る。
もう鬼はいないようだ。
そして、あの男も、逃げたようだ。
安心した次の瞬間、俺の視界が暗転した。
何が起こったか理解できないまま、俺は意識を失った。
<炭治郎side>
圧倒された。
義勇さんを深く傷つけた鬼にも、その鬼をありえないほどの技量で倒した義勇さんにも。
でも、その気持ちは長くは続かなかった。
義勇さんの手から刀が滑り落ち、身体がグラリと傾いた。
竈門炭治郎
義勇さん!
我妻善逸
冨岡さん!
倒れる寸前でその身体を抱き留める。
義勇さんの顔は、もともと白い肌が血の気を失って、より青白くなっていた。
何度か呼びかけてみるが反応がない。
意識を失ったようだ。
地面についていた手が生温い液体に触れて視線を下ろすと、赤い液体……血が、じわじわと広がっていた。
義勇さんの腕の傷から、出血している。
我妻善逸
ど、ど、どうしよう。
さっきの男性は、と周りを見渡すと、誰もいなかった。
逃げたのだろう。
我妻善逸
死んじゃう!?冨岡さん、死んじゃう!?
縁起でもないことを言う善逸に頭突きを喰らわせ、俺は義勇さんの傷の手当てに取り掛かった。
善逸が俺の頭突きで気を失っていたところから目を覚ます頃には、義勇さんは隠の人達によって蝶屋敷に運ばれて行っていた。
かなりの出血量だったし、疲労も溜まっていたようだったから丁度いい休み期間だ、と隠の人の誰かが言っているのが聞こえた。
我妻善逸
冨岡さんは?
竈門炭治郎
蝶屋敷に運ばれて行ったよ。頭突きしてごめんな。
我妻善逸
うん……。
善逸とそんな話をしながら、藤の花の家紋の家に向かう。
今日は泊めてもらおうと思っていたのだ。
竈門炭治郎
俺、もっともっと強くなるよ。自分も、周りの人もみんな、助けられるくらいに。
今日は、義勇さんに任せきりで、何もできなかった。
今までの任務で、いろいろなことを体験させてもらったというのに。
我妻善逸
そうだな。俺も、頑張るよ。
善逸が、珍しくそんなことを言った。
それから、こっちもあっちも一段落ついたら、義勇さんのお見舞いに行こうという話をした。
俺も、善逸も、今回の任務で何もできなかったことを後悔していた。

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