第6話

岩泉くんの初恋4
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2018/07/21 14:58
走って走って、着いた場所は、学校の旧校舎の

図書室だった。

ひとり、うずくまって泣いた。

無意識に唇を拭っていたのか、唇が少しひりひ

りする。

「なんで……岩泉くんの、前で…っ」

誤解……された、よね。

「もう…嫌っ…」

涙が止まらなくなってきたそのとき、がらがら

と図書室の引き戸を開ける音がした。

……誰だろう。新校舎にも図書室があるからこ

こに人なんて滅多に来ないのに。

そう思って警戒し始めたとき

「あっ!見っけー!!!!探したよ!
えっとーあなたちゃんだっけ?」

そこにいたのは、

「お、及川徹!?」

「おっ!俺のこと知ってんの?!さすが及川さんだなぁ〜」

「い、いや、違います。岩泉くんから…」

言いかけてはっとする。そうだこの人、岩泉く

んの幼馴染で同じ部活だった。

ということは…岩泉くんに私がここにいるって

ばれちゃう!

「で…では。私はこれで……」

そう言って別の場所に行こうとすると

「待って」

さっきとは違う真剣みを帯びた声色に少し驚い

た。

「岩泉ちゃんさ、最近あなたのことばっか話してんの。あのバレーにしか興味ないあの岩ちゃんが!…なんでか分かる?」

私は首を横に振る。

すると及川くんはやれやれとでも言うように溜

息をひとつついて

「こっから先は自分で確かめな。体育館にいるからさ。
逃げないで。岩ちゃんも迷惑なんて思ってないから。…頑張るんだよあなた」

…及川くんは私の心を読めるのかな。

私の不安を拭ってくれた。

「……ありがとうございますっ!」

そう言って頭を下げ、岩泉くんのもとへ向かっ

た。

体育館までもうすぐだ!そう思ったとき、目の

前に人が現れた。

「は、橋本、くん。」

「……ねえ…で…の…」

「……え?…」

いつもとは違う。明らかに様子がおかしい。怖

くて声が震えた。

「どうして!!!!逃げるんだよ!!!!あなたは俺の彼女だろ!?だったら、逃げる必要なんて!」

怖い……。けど、ちゃんと言わなきゃ!

「わ…私、橋本くんとは付き合えない。
私は…岩泉くんのことが…」

好きだから。そう言おうとした。でも言えなか

った。橋本くんの手にはカッターナイフが握ら

れていたから。

「俺のものにならないのは、岩泉がいるから…?それとも岩泉なんて関係ない…?」

ゆらゆらと近づいてくる橋本くんに恐怖で足が

すくむ。

「ひっ…いやぁぁぁ!!!!」

目を瞑って叫ぶ。怖がっていた痛みは来なかっ

た。

その代わり、聞こえたのは何かが地面に叩きつ

けられる音だった。

「ハアハア、大丈夫かあなた!?何もされてないか!?」

「…?い、岩泉…くん…?」

そこにいたのは岩泉くんだった。

正直そこからはあまり覚えていない。

橋本くんは警察に行ったそうだ。

私は気づいたら保健室のベッドで寝ていて、起

きたらそばで岩泉くんがいた。

「岩泉くん…。また、迷惑掛けちゃった。
ごめん…ごめんねっ!」

また、目頭が熱くなってきた。

そのとき、手に温かいものが触れた。

「…迷惑なんて思っちゃいねーよ。あなたが無事だったなら、それでいいんだべ。」

「…っ岩泉くん。」

起きているとは思ってなかったからすごくびっ

くりした。

「むしろ、橋本と付き合ってるって聞いたときん方が…すげーかっこわりぃけど…嫉妬、した、から…。」

え?…そんなこと言われたら、私、期待しちゃ

うよ?

そう思った。

岩泉くんはしばらく黙って、それから頭をわし

ゃわしゃして、

「ああーっ!つまり!何が言いたいかって言うと!」

岩泉くんはいつもバレーボールをさわって少し

硬くなっている、でも優しくて温かい手を私の

頬に添えて、

「俺は…あなたのことが好き、みたいだ。
こんなん初めてでなんて言やーいいかなんてわかんねえけど…。」

一呼吸おいて、覚悟したように真剣な表情で

「俺と…付き合ってくれませんか。」

嬉しすぎて涙が溢れた。

私の答えなんてもう決まってる。

「…はいっ!こちらこそよろしくお願いします!!!!」

そう言い終えた途端、唇に温かいものが触れ

た。

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