湯船に入ってこれからのことを考える。
なんで俺はスンミナを拒まなかったんだろう。
数年前だって、今日だって、ちゃんと拒絶したら、無理やりすることなんてないだろうに。
その気がないなら、ちゃんと伝えるべきだ。
その方が、スンミナだって次の道に進めるはずだ。
答えを出すのは簡単なはずなのに、あるべきはわかっているはずなのに、
なんでその通りにできないんだろう。
そんなことを考えながら、普段通り身体を洗って、風呂から出る。
部屋着に着替えて、スンミナの部屋の扉を開けると、落ち着かない様子でスンミナがベッドの淵に座っていた。
そんなスンミナにドライヤーを手渡して、脚の間に座る。
スンミナはそんな俺に何にも言わずに俺の髪を乾かし始めた。
ドライヤーの音は止んだのに、スンミナの指は俺の襟足を弄んでいる。
言わないと。
ダメだって。
俺なんかに触れるな、って。
きっとお前には俺なんかよりいい人がいる、なんて綺麗な言葉じゃダメで、
お前なんて好きじゃない、
抱かれたくなんてない、って。
スンミナの両腕が俺の肩に回る。
少し震えてるのに、それはちゃんと力が入っていて、簡単には振り解けそうにない。
スンミナの唇がうなじに落ちて、湿った音を立てる。
それがくすぐったくて、鳥肌が立つ。
顔を上げて、スンミナの顔を覗き込む。
何かを懸命に我慢しているような、拒絶されるのを恐れて泣きそうになっているような、
複雑な表情をしているスンミナに、思わず笑みが漏れる。
スンミナの両腕をタップして、ほどくように促す。
素直に言うことを聞いたスンミナに対して、床に座っていた身体を起こして、目線を合わせる。
さっきまで嫌と言うほど俺を見てたくせに、俺と目が合いそうになると、
途端に視線を逸らす。
あれだけストレートに想いをぶつけてきたくせに、今更逃げるなんて、そんなこと、許さない。
すっかり大人になったフェイスラインを、片手を沿わせて撫でると、
スンミナは俺の手首を握って、そのままベッドに押し倒した。
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
そんなので目覚めるなんて、漫画かドラマの中だけだと思っていた。
身体を起こそうとすると、半分ほど覆い被さられているスンミナの身体にそれを阻まれる。
寝起きで気の抜けた声を出すスンミナが、どけと言ったのに俺にしがみつくように抱きついてくる。
それよりもっとヒョンとくっついてたいよ、
そう甘えるように言われて、思わず甘やかしてもやりたくなる。
でも、心を鬼にする。
甘えるスンミナにデコピンをして、起き上がる。
昨日剥がれて、乱雑に散らばっていた下着と部屋着を身につけて、リビングに降りる。
俺がコーヒーメーカーをセットしていると、スンミナも部屋着を引っ掛けて、欠伸をしながら下に降りてくる。
スンミナの母親のお墓はここから車で30分ほどのところにある。
律儀なコイツが定期的に行っていることは知っていた。
一人で行きたいだろうと思い、今まではあまり言及しなかったが、バスを乗り継いで行くにはそこそこの時間がかかる。
俺もちゃんと約束しないと。
これから、離れて暮らすこともあるけれど、見守っていくことと、
スンミナ達が帰ってきたときは迎えてやることを。
それは彼女がしたくても、できなかったことだから。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!