(なな視点)
昼休み。
私は机にあごを乗せて、ぼんやりと隣の子を見ていた。
隣の成瀬ほのかちゃんは、今日も静かだった。
水色のセーター。落ち着いた表情。
それなのに、目線だけは時々ふわっと遠くへ向かう。
「……購買、行った?」
「行ってない。混んでるでしょ」
「たしかに。……私、今日なぜかプリンだけ持ってきた」
「変な構成」
くすりと笑うその顔に、ちょっと救われる。
まだ“友達”って感じじゃないけど、こうして少しずつ話せるようになってきたのが、嬉しかった。
そのとき。
教室の後ろのドアが、少しだけ音を立てて開いた。
「あれ……」
私はつぶやいて、顔を上げる。
入ってきたのは、たしか斜め後ろの男子――桐島 蓮くん。
教室でも静かな方で、特に誰と仲がいいとかも聞いたことがない。
「……鍵、落ちてたよ」
その声は小さくて、誰に言ってるのか一瞬わからなかった。
でも、その視線の先が成瀬ほのかちゃんだったと、すぐ気づいた。
「あ、……ありがとう」
ほのかちゃんは静かに答え、鍵を受け取った。
桐島くんは無言でうなずいて、何も言わずに席へ戻っていった。
その間、たった10秒。
でも私には、なんかすごく長く感じた。
「……知り合い?」
気づいたら、私はそう聞いていた。
ほんのちょっとだけ、無意識に。
ほのかちゃんは、首を横に振った。
「ううん。名前しか知らない。……でも、なんとなく前にも話した気がする」
「え?」
「……前の学校で、たまに、似た空気の子がいたから」
とても曖昧な答えだった。
でもその横顔が、なぜかいつもよりちょっとだけ遠く見えた。
私は、ほのかちゃんのことをもっと知りたいって思った。
けど今の私は、彼女の過去も、視線の先も、ぜんぜん見えていない。
——そのとき私は、まだ知らなかった。
この数秒の出来事が、
私の“普通の春”を変えてしまうことになるなんて。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。