第96話

🦉✩.*˚
179
2025/09/19 12:00 更新










あなた・シアーズ
ぎ、ギリギリ、セーフ……ですよね





ゼェゼェと息を切らしながらも、何とか校門前で今にも車に乗り込みそうだったルーピン先生──もう先生じゃないけど──に声をかける。




リーマス・ルーピン
あぁ、間に合ったね。わたしとしては、間に合わないと思っていたのだけれど
あなた・シアーズ
い、行く前に……聞きたいことがあって
リーマス・ルーピン
そうか





それだけで、彼は車のドアから手を離し、僕の方をまっすぐ見た。



胸の奥にため込んでいた空気を、ゆっくりと吸い込む。




あなた・シアーズ
昨日のこと、教えてください。





僕の中の"彼女"は、先生と同い年だと言った。もしそれが正しいなら……"彼女"は、僕らのひと世代上の人物だ。


──それも、実在した人物。



なぜそんな存在が僕の中に?そもそも、『僕の中』という表現すら正しいのか?"彼女"は僕の出自と関係があるのか?


ルーピン先生は、多分、その答えを全て知っている。




リーマス・ルーピン
おや、あなたは全部を説明しなかったのかい?
あなた・シアーズ
……何も。何も、説明されませんでした
リーマス・ルーピン
そうか……





先生は少し目を細めて、僕のことをじっと見つめている。


何かを思い出すように。何かを慈しむように。




リーマス・ルーピン
じゃあ、わたしが教えられることは何も無いかな
あなた・シアーズ
っ!? そんな、なんで……!?
リーマス・ルーピン
うーん……あいにくわたしは、君の中にいる"彼女"と約束を交わしていてね。君には何も伝えられないんだよ
あなた・シアーズ
そんな……
リーマス・ルーピン
すまないね。魔法契約は何よりも重い





こんなに走ってきたのに……!!



しかし、契約の重さを否定する術はない。破れば命すら奪うものすらあるのだ。


ルーピン先生は、僕から目をそらすことはしなかった。そこに、ためらいとも諦めともつかない色が混じる。



その目がほんの一瞬だけ、あの日の光景を呼び起こす。



──授業中。ボガートが僕の前に現れたとき。


小さな女の子。目は涙で濡れ、唇は震えていて、それでも確かに叫んだ。




「"化け物!"」





あの声で足が動かなくなり、杖すら握り直せなかった僕を、彼が引き寄せ、前に立った。


ボガートは煙のように掻き消え、教室にはざわめきだけが残った。



あれ以来、彼は何も聞かなかった。


たぶん──聞かない方がいいと、判断してくれたのだろう。




あなた・シアーズ
……ルーピン先生
リーマス・ルーピン
ん?
あなた・シアーズ
授業の時……助けてくれて、ありがとうございました
リーマス・ルーピン
……そんなこともあったね





彼はあの言葉の意味を知らない。日本語たから。異国語だから。あの少女が発したあの叫び声は、僕にしか伝わらなかった。



彼は笑った。


きっとそれには、触れられない何かが隠れている。


僕もそれを深く追いかける気はなかった。




リーマス・ルーピン
また会うよ、きっとね
あなた・シアーズ
はい





ルーピン先生が車に乗り込み、ゆっくりと門を抜けていく。


僕は車が見えなくなるまで立ち尽くしてから、深く息を吐いた。



──また会う。


その言葉だけが、静かに胸の底に沈んでいった。









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