とにかく色々あったことは確かだが、時間は我関せずと流れる。あっという間に学期の最終日がやってきた。
試験結果の張り出しを見て、全科目合格の文字に胸を撫でおろす。安堵も束の間、隣でハーマイオニーがまたしても桁外れの成績を叩き出していて、思わず言葉を失った。どうしてああいう点数が出るのか、僕にはまるで想像もつかない。
もっとも、僕も変身術などの実技科目に関しては、ほんのちょびっと──具体的には、一、二百点ほど──限界を突破していたのだけれど。……まあ、ハーマイオニーに比べれば、誤差の範囲だよね。
翌朝。紅色のホグワーツ特急がホームから滑り出す。出発早々、ハーマイオニーが驚くような一言を口にした。
僕は思わずスノーにあげていたお菓子を取り落としそうになる。
ハーマイオニーが深いため息をついた。
元々僕が全科目を取ったのは、彼女に押し切られたからだ。本当のところ、『マグル学』も『占い学』も、僕にはそこまで必要ない。
でも、ホグワーツ特急はもう発車している。履修変更なんてできるわけもなく、来年もまた全科目フルコース確定というわけだ。
ロンの誘いは、あまりにも魅力的だった。
ハリーにとってはもちろんだろうけど、スポーツ経験なんてほとんどない僕ですら、胸が弾んでしまう。
昼時、いつもの魔女のワゴンからお菓子を買い込む。
ハリーからもらった百味ビーンズの、何味か分からないけどとにかく不味い味やつを飲み込んだその時、小さなフクロウが窓の外に現れた
本当にチビのフクロウで、スノーよりも小さい。あっちにフラフラこっちにヨロヨロと飛び回り、今にも地面に落ちそうだった。
ハリーがすぐに受け止めて、手紙を取り出す。二通ある。
ハリーに差し出された手紙を受け取ると、確かにそこには『あなた・シアーズへ』と記されていた。
あなた・シアーズへ
この前は驚かせてすまなかった。リーマスから君たちのからくりについて聞いたよ。ほんとうにとんでもないことをやるものだ。
さて、君がハリーと同じくホグズミードに行けない話を聞いて、見た目だけは水神あなたな君がホグズミードに行けないなんて、そんな馬鹿なことがあるかとリーマスと話し合ったんだ。彼女はいつもホグズミードやダイヤゴン横丁に行くたびに目を輝かせては、腕いっぱいに何かを持っていたからね。そこで、一応名義上は君の後見人になっているリーマスにサインを書かせた。同封するから、ダンブルドアに見せるんだ。いいね?
かつての君の友、シリウス・ブラック
P.S. 君のフクロウは優秀だ。わたしが城にいた間中、ずっと君の傍にいたからね。
わたくし、リーマス・ルーピンは、あなた・シアーズの後見人としてらここに週末のホグズミード行の許可を、与えるものである。
来年は、もっと楽しくなりそうだ。
ホグワーツ特急が9と4分の3番線に到着する。三人と別れ、僕は駅裏の路地へと足を向けた。
なんと、今年はまた直々にダンブルドア校長が僕のことを日本まで送ってくださった。去年も一昨年も学年末は校長室に呼び出されていたのに、今年はないから何か変だとは思ってたんだよ……
思わず無難な言葉しか出てこなかった。けれど、校長はそれを否定するでもなく、ただ目を細めて頷いた。
僕は返事をしながら、胸の奥に小さなざわめきを感じていた。
僕の内側にいる“水神あなた”。もしかしたら、僕自身が本物ではないのかもしれない、という不安。そんな思いを、言葉にしてしまいたい衝動がこみ上げる。
ダンブルドア校長が、それにどんな返答をするかなんて、もうとっくに分かりきっているのに。
けれど、口を開く前にダンブルドアは先んじて言った。
視線を落とす。
そう言う校長の横顔は、どこか寂しげで、けれど揺るぎなく優しかった。
そうしてパチンと指を鳴らして消えた校長がいたあとを、僕はぼんやりと見つめることしか出来なかった。
僕は重い荷物とスノーの鳥かごを持ち直して、生まれ育った孤児院に入った。
その扉の向こうに、僕の知らない夏が待っているとも知らずに。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!