第97話

🦉✩.*˚
236
2025/09/26 12:00 更新










とにかく色々あったことは確かだが、時間は我関せずと流れる。あっという間に学期の最終日がやってきた。


試験結果の張り出しを見て、全科目合格の文字に胸を撫でおろす。安堵も束の間、隣でハーマイオニーがまたしても桁外れの成績を叩き出していて、思わず言葉を失った。どうしてああいう点数が出るのか、僕にはまるで想像もつかない。


もっとも、僕も変身術などの実技科目に関しては、ほんのちょびっと──具体的には、一、二百点ほど──限界を突破していたのだけれど。……まあ、ハーマイオニーに比べれば、誤差の範囲だよね。



翌朝。紅色のホグワーツ特急がホームから滑り出す。出発早々、ハーマイオニーが驚くような一言を口にした。




ハーマイオニー・グレンジャー
私、今朝、朝食の前にマクゴナガル先生にお目にかかったのり『マグル学』をやめることにしたわ
あなた・シアーズ
えぇっ!?





僕は思わずスノーにあげていたお菓子を取り落としそうになる。




あなた・シアーズ
君、百点満点の試験を三百二十点でパスしたのに!?
ハーマイオニー・グレンジャー
そうよ





ハーマイオニーが深いため息をついた。




ハーマイオニー・グレンジャー
でも、また来年、今年みたいなことになるのには耐えられない。あの『逆転時計タイムターナー』、あれ、私、気が狂いそうだった。『マグル学』と『占い学』を落とせば、また普通の時間割になるの
あなた・シアーズ
で、でもマクゴナガル先生が、来年はちゃんと時間割を組むから大丈夫って……
ハーマイオニー・グレンジャー
あなたは全科目を続けたらいいじゃない。実際、あなたはあんまり疲弊してなさそうだったもの
あなた・シアーズ
えぇ……





元々僕が全科目を取ったのは、彼女に押し切られたからだ。本当のところ、『マグル学』も『占い学』も、僕にはそこまで必要ない。


でも、ホグワーツ特急はもう発車している。履修変更なんてできるわけもなく、来年もまた全科目フルコース確定というわけだ。




ロン・ウィーズリー
今年の夏はクディッチのワールドカップだ! どうだい、ハリー、あなた? みんなでうちに泊まりにおいでよ。一緒に見に行こう! パパ、大抵役所から切符が手に入るんだ





ロンの誘いは、あまりにも魅力的だった。


ハリーにとってはもちろんだろうけど、スポーツ経験なんてほとんどない僕ですら、胸が弾んでしまう。



昼時、いつもの魔女のワゴンからお菓子を買い込む。


ハリーからもらった百味ビーンズの、何味か分からないけどとにかく不味い味やつを飲み込んだその時、小さなフクロウが窓の外に現れた


本当にチビのフクロウで、スノーよりも小さい。あっちにフラフラこっちにヨロヨロと飛び回り、今にも地面に落ちそうだった。


ハリーがすぐに受け止めて、手紙を取り出す。二通ある。




ハリー・ポッター
シリウスからだ。……あ、これはあなたに……?
あなた・シアーズ
え?あ、ありがとう





ハリーに差し出された手紙を受け取ると、確かにそこには『あなた・シアーズへ』と記されていた。




 あなた・シアーズへ

 この前は驚かせてすまなかった。リーマスから君たちのからくりについて聞いたよ。ほんとうにとんでもないことをやるものだ。
 さて、君がハリーと同じくホグズミードに行けない話を聞いて、見た目だけは水神あなたな君がホグズミードに行けないなんて、そんな馬鹿なことがあるかとリーマスと話し合ったんだ。彼女はいつもホグズミードやダイヤゴン横丁に行くたびに目を輝かせては、腕いっぱいに何かを持っていたからね。そこで、一応名義上は君の後見人になっているリーマスにサインを書かせた。同封するから、ダンブルドアに見せるんだ。いいね?

 かつての君の友、シリウス・ブラック
 
 P.S. 君のフクロウは優秀だ。わたしが城にいた間中、ずっと君の傍にいたからね。
 わたくし、リーマス・ルーピンは、あなた・シアーズの後見人としてらここに週末のホグズミード行の許可を、与えるものである。
あなた・シアーズ
はは……優しいんだか、優しくないんだか





来年は、もっと楽しくなりそうだ。



ホグワーツ特急が9と4分の3番線に到着する。三人と別れ、僕は駅裏の路地へと足を向けた。



















あなた・シアーズ
今年はもう、顔を合わせないと思っていたのですが
アルバス・ダンブルドア
運命とは数奇なるものじゃよ、あなた
あなた・シアーズ
それもそうですね





なんと、今年はまた直々にダンブルドア校長が僕のことを日本まで送ってくださった。去年も一昨年も学年末は校長室に呼び出されていたのに、今年はないから何か変だとは思ってたんだよ……




アルバス・ダンブルドア
さて、今年はどんな年だったかな?
あなた・シアーズ
……えっと……忙しくて、目まぐるしくて……でも、楽しかったです





思わず無難な言葉しか出てこなかった。けれど、校長はそれを否定するでもなく、ただ目を細めて頷いた。




アルバス・ダンブルドア
忙しい日々こそ、若者の特権じゃ。楽しさの裏には苦労もある。苦労の裏には学びもある。──それを覚えておくとよい
あなた・シアーズ
……はい





僕は返事をしながら、胸の奥に小さなざわめきを感じていた。


僕の内側にいる“水神あなた”。もしかしたら、僕自身が本物ではないのかもしれない、という不安。そんな思いを、言葉にしてしまいたい衝動がこみ上げる。



ダンブルドア校長が、それにどんな返答をするかなんて、もうとっくに分かりきっているのに。



けれど、口を開く前にダンブルドアは先んじて言った。




アルバス・ダンブルドア
あなた。君は君じゃ。たとえどのような経緯であれ、君が君らしく笑い、怒り、泣き、そして友を思うならば、それ以上に確かなものはない
あなた・シアーズ
はい





視線を落とす。




アルバス・ダンブルドア
来年もまた、きっと試練があるだろう。けれど、きみには大切なものがある。そのことを、どうか忘れんように





そう言う校長の横顔は、どこか寂しげで、けれど揺るぎなく優しかった。


そうしてパチンと指を鳴らして消えた校長がいたあとを、僕はぼんやりと見つめることしか出来なかった。




あなた・シアーズ
……行くか……





僕は重い荷物とスノーの鳥かごを持ち直して、生まれ育った孤児院に入った。



その扉の向こうに、僕の知らない夏が待っているとも知らずに。









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