第9話

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2021/02/07 11:50



「お兄ちゃんっ、見て!」

リカが指差した。その先には水平線に浮かぶ船があった。

「あぁ、漁にでもでてるのかな」

「漁? すごーい」

僕はリカを車に乗せて海岸へ来た。リカは、海が珍しいらしく、キョロキョロとしては、目を輝かせた。僕は、そんなリカを見て、つい笑った。リカの反応があまりに素直に見えた。

「漁が気になるの?」

「うんっ、一度にたくさんのお魚を捕まえるってすごいと思う。いいなぁ、わたしもお魚釣ってみたい」

「リカちゃんは魚釣りとかしたことないの?」

「一度だけ、でも、釣り堀だったし、一匹も釣れなかった」

「そうなんだ……」

「でも、釣れなくても楽しかった。それも大事な思い出だから」

僕は、そうだね、と言ってうなづいた。
それからしばらくの間、リカと僕は海を眺めた。空は相変わらず快晴で、海の匂いも、風もすべてが気持ちいいと感じた。僕はリカと二人きりでこうして自然を眺めることができて幸せだった。
こんな風に穏やかな気持ちで海を眺めるのもいつぶりだろう。懐かしさに心を預ける。


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