俺が人影に近づこうとした時、その人影は俺に向かってそう叫んだ。
俺がそう呟いた数秒後、雲に隠れていた月が少しずつと顔を出し、夜の街をやさしく照らした。
月光で人影が照らされ、本当の姿が露わになった。
その少年の顔は、口が裂けても“顔”と、言いたくはなかった。
絶望したような奇声を上げながらその少年はこちらに向かってすごい速さで突っ込んできた。
少年はイノシシのように真っ直ぐに走ってきた。口からは胃液と血の混じったよだれを垂らしながら。
幸い真っ直ぐこちらに突っ込んできてくれていたため、俺は右に一歩移動して突っ込んでくる少年を避けた。
俺の左側を突っ切った後、少年は倒れながらゴロゴロと2回前転した。
もぞもぞとゆっくり身体を起こしながら少年は口を開いた。
少年は泣いていた。悲しい、寂しい、悔しい、絶望。そんな気持ちが混じり混じったような表情でこちらを見つめていた。
だが、その表情を作り出している顔と思われるモノも、頬に目があり、本来口に当たる位置に鼻があったり、本来鼻に当たる位置に口があったり。顔のパーツは恐ろしく失敗した福笑いの様だった。
肌の色なども所々で違っていて、その肌色の境目からは血が滴っていた。
___まるで、沢山の人の顔を千切って貼り付けたような。
少年は、顔から一滴血を滴らせながら、笑った。
__俺の祖母は、よく妖怪の話をしてくれた。
そうほほえみながら祖母はおれの頭をぽふぽふと撫でた。
俺は、ばっ!と手を挙げて自信満々で答えた。
手を挙げた振動で湯飲みが揺れたところを祖母は優しく支えながら、へにゃっとした笑みを浮かべて言った。
俺は目を丸くして祖母をじっと見つめた。
俺はへなっとした笑みを浮かべながら元気よく挙手した。
のっぺらぼう。それは、
出会うと顔を取られてしまう妖怪
私はその日、母にお使いを頼まれてスーパーまで自転車を漕いでいた。
何の叫び声だろう。そう思って私は叫び声のする方へ歩いていった。
涙でぐちゃぐちゃの顔を擦りながら、目の前の子供がこちらを見た。
いや、涙だけじゃない。
顔そのものがぐちゃぐちゃだった。顔のパーツがぐちゃぐちゃだった。
私は驚いて後退りした。子供はしょぼんと左下を見つめていた。
私は恐る恐るその子供に話しかけた。ここでスルーしてしまったら、その子を見殺しにしてしまう気がしたからだ。
涙を拭うために顔に触れていた手を退け、下を向いたまま子供は言った。
私は頭を振りながら聞き返した。
虐待だろうか、そんなことが頭をよぎったが現実味がわかなかったからだ。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。