第49話

言葉にして
23
2019/10/02 10:10




ながいながい眠りから覚めた。




ながいながい夢から戻ってきた。







そんなヒロインを抱きしめる、彼女の愛した人。








──小さな時に、私がその頃から好きだった少年と見た映画のワンシーンだ。



それにひどく感動したのか。

それとも、それが彼と初めて見た映画だったからか。


どうだったか忘れたけど、そのシーンは今もなお、頭の片隅かたすみに残っている。


そして、時々思い出しては「またあの映画見たいなあ」とか思ってる。



そんな、いつまでも忘れられない記憶を、今、ぼんやりと思い出していた。




多分、今まで思い出したものの中でも特に、鮮明せんめいに。




























そして、私の顔をのぞき込むように見つめる君の顔は、きっと、ずっと。



今まで見たどの顔よりも、幸せそうだ。






















ずっと暗闇の中に閉じ込められるような気がした。

あの夢を見ている時は。


まるで走馬灯そうまとうのように、これまでの記憶が流れた、あの電車の窓。



あそこに写っていた私は、幸せそうにその記憶達を眺めて、




泣いていた。






......嫌だ、と。






今でも耳にこびりつくその3文字は、確かに私の口から出ていた。


夢の中のようにふわふわした頭でも理解できるほど、強く、発していた。





何が嫌だったのかは......、大好きなあいつの名前が思い出せないままだったこと。




このまま、忘れたまま、あいつの前から姿を消してしまう気がして。


それがこわくて。


そう思ってしまった自分がこわくて。




気づけば涙がこぼれていた。





枯れかけの花に水をやるように



涙が、無くしかけていた感情を、記憶を



鮮明によみがえらせた、ような。








そんな気がした。








もちろん、あいつのことも。





相川 そら
......わたる





──そこまで思い出した私は、3文字をつぶやいていた。





そして、目の前のあいつの瞳がれていることに気づいて、もう一度呼んだ。





相川 そら
渉。......ひさしぶり





ずっと前、毎日のように見ていたふにゃっとした笑顔で、彼は同じように返す。





森崎 渉
そら。久しぶり









その後、まるであの映画のように強く抱きしめられた。








あのヒロインの気持ちが、少し分かった気がした。

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