最後の方の言葉は、震えていた。
そらの顔ははっきりと見えなかったけど、多分、悲しいっていう感情が出てるんだろう。
涙は見えなかった。
こらえているのか、......それとも......。
不思議と、わすれるかもしれない、という言葉に俺の心が痛むことはなかった。
......多分、実感したことがないからだ。
だから、俺にはここで泣くことはできない。
涙ってやつを、流しちゃいけない。
悲しいっていう感情を、今は押し殺さなきゃいけない。
情けないことに、そこで俺は話に詰まってしまう。
あ〜あ、せっかくかっこいいセリフ言おうと思ったのに。
──そらの言っていた、「わたるのこともわすれるかもしれない」ということ。
その時が訪れるのは思っていたよりもはやかった。
戸惑ったような表情をこちらに向けるそら。
......少し安心して、いつもと同じ質問をする。
──こうしてそらと話せたら、それでいい。
なんて思うのは、それを理由にしてここに来るのは、......ダメなのかな?
もう俺を覚えていなくても。
話せたら、顔を見れたら、それだけで嬉しくなる俺は単純なんだろうか。
少したとたどしい会話も、
まだ少し残っているらしい感情によってつくられる表情も、
今日も、別れ際に
と、告げてくれたのも。
......全部。
好きだなあ、なんて当たり前のように感じる。
もう、彼女には残っていないだろう、言葉を、口に出してみたくなる。
それをしたところで何もないとしても。
病室のドアを開ける。
......あの日、俺が呟いたあの一言は、そらに届いてたんだろうか。
「こうして話せるだけで、顔を見れるだけで、」
「しあわせだから」
届いたところで、その意味までは伝わっているんだろうか。
──......また今日も、俺はそんなことを考えながら、帰りの電車に揺られている。
──俺のせいで君があの病気になってしまっていたのなら。
俺のことなんて、忘れてしまって構わない。
むしろ......──忘れて......?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。