第47話

忘れて 3
17
2019/09/07 12:46
相川 そら
せらとわたるしか覚えてないの
森崎 渉
......え
相川 そら
やっぱり、そういう反応だよね。
......なんか、ね。今はこうやって話も
できてるけど、もうすぐできなくなるかも
って言われたの。......誰かに
森崎 渉
......うん
相川 そら
あとね、今覚えてる人達も、
......わ、わすれるかも、しれない......って......
最後の方の言葉は、震えていた。

そらの顔ははっきりと見えなかったけど、多分、悲しいっていう感情が出てるんだろう。



涙は見えなかった。

こらえているのか、......それとも......。




森崎 渉
......うん




不思議と、わすれるかもしれない、という言葉に俺の心が痛むことはなかった。


......多分、実感したことがないからだ。









だから、俺にはここで泣くことはできない。

涙ってやつを、流しちゃいけない。

悲しいっていう感情を、今は押し殺さなきゃいけない。

















森崎 渉
俺は、いいよ
相川 そら
......え?
森崎 渉
そらには、大切な人達がたくさんいた。
いや、今もいるんだ
相川 そら
......うん......わたし......その人達を
忘れて......
森崎 渉
そらが忘れてしまったことを知っても、
その人達は怒ったりなんてしない。
「なんで忘れたんだ?」なんて聞かないよ
相川 そら
......そうなの?
森崎 渉
うん。だって、こうして話せるだけで、
顔を見れるだけで、......
情けないことに、そこで俺は話に詰まってしまう。

あ〜あ、せっかくかっこいいセリフ言おうと思ったのに。
森崎 渉
............
相川 そら
......え──

















































──そらの言っていた、「わたるのこともわすれるかもしれない」ということ。



その時が訪れるのは思っていたよりもはやかった。




森崎 渉
──......久しぶり、そら
相川 そら
......えっと......
森崎 渉
俺は、わたる、だよ
相川 そら
わたる......?
森崎 渉
うん
相川 そら
......
戸惑ったような表情をこちらに向けるそら。

......少し安心して、いつもと同じ質問をする。
森崎 渉
今日は、なにしてたんだ?
相川 そら
......今日は、ね......──














──こうしてそらと話せたら、それでいい。



なんて思うのは、それを理由にしてここに来るのは、......ダメなのかな?















もう俺を覚えていなくても。





話せたら、顔を見れたら、それだけで嬉しくなる俺は単純なんだろうか。





少したとたどしい会話も、





まだ少し残っているらしい感情によってつくられる表情も、





今日も、別れ際に
相川 そら
ありがとう、またね
と、告げてくれたのも。












......全部。





好きだなあ、なんて当たり前のように感じる。





もう、彼女には残っていないだろう、言葉を、口に出してみたくなる。




それをしたところで何もないとしても。






















病室のドアを開ける。


























......あの日、俺が呟いたあの一言は、そらに届いてたんだろうか。








「こうして話せるだけで、顔を見れるだけで、」





「しあわせだから」







届いたところで、その意味までは伝わっているんだろうか。



















──......また今日も、俺はそんなことを考えながら、帰りの電車に揺られている。


























































──俺のせいで君があの病気になってしまっていたのなら。











俺のことなんて、忘れてしまって構わない。









むしろ......──忘れて......?

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