いつも通り騒がしい廊下を、友達と歩き教室に向かう。
何人かの人にすれ違い様に挨拶をされ俺も挨拶を返す。
最近は学校生活がとても充実していてたのしい。
だから毎朝学校に行くのがとても楽しみだった。
友達もそこそこいるし、勉強もすごく頭がいいって訳では無いけどまあまあ頑張れている。
だけど、何もかもが足りていると思った俺の生活にひとつ足りないものがあったのに最近気が付いた。
それは恋。
でも
恋というものは自ら探しに行くものではなく待っているもの、とどこかで聞いたことがある。
だから無理に今好きな人などを作ろうとはしなかった。
ぼーっと歩きながらそんなことを考えていると、いつの間にか教室についていた。
入った途端、数人の友達が声をかけてくれた。
俺も笑顔で挨拶を返した。
自分の席に俺の右肩にかかっていた重めのカバンを置く。
席に座り一息ついた。
無意識に手がポケットの中に伸びていく。
友達の言葉を聞いて、不安な気持ちが俺に覆いかぶさってきた。
どこやったっけなあ…
カバンの中を探したけど生徒証明書は見当たらない。
そんな時、誰かが俺のことを呼ぶ声が俺の耳に響いてきた。
俺に声をかけてきた友達が指す方向を見ると、そこにはどこかで見たことある人が立っていた。
なんて呟きながらその人の元に向かう。
そう言って、名前も知らない彼は俺に何かを差し出してきた。
思わず声が漏れるも、差し出された手から俺の生徒証明書を受け取る。
突然知らない人に名前を呼ばれ、びっくりし思わず彼の顔を見あげてしまう。
すると彼は気まずそうに頭の後ろに手をやりながら口を開いた。
そう言って、彼は俺に手を振りながら小走りで戻っていった。
無意識に彼のことを引き止めてしまった。
不思議そうにこちらを見つめる顔から、少し目をそらしてしまう。
お前しかいないよ、なんて思い少し笑ってしまう。
少し離れた場所からそういうテオ。
周りにはたくさんの人が居るのに、俺の目にはテオしか目に入っていない。
テオ、なんて突然呼び捨てで呼ぶのはさすがに勇気がいる。
あだ名つけるの下手、なんて思われそうなただ 「くん」をつけただけの呼び方。
そんな呼び方すら嬉しかったのか、テオくんは満面の笑みで俺にもう1度手を振ってきた。
そう言ってテオくんは小走りで自分の教室に戻っていった。
ひとり小さく呟く。
クスリ、と笑ったのが自分でも分かった。
教室に戻り、自分の席でテオくんが拾ってきてくれた生徒証明書を見つめる。
慌てて俺は、自分の両頬を自分の手のひらで包んだ。
たしかに少し熱い気がする。
ちがう、熱なんかの熱さじゃない。
これは多分
俺、テオくんのせいでこんなになってんだ。
なんの根拠もないけど、ふとそんなことを思った。
頭にテオくんの満面の笑みが浮かんでくる。
考えるとまた頬が熱くなってきてる気がして。
頬に手を添えながら、そんなことを呟いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。