やっと式が終わった。
緊張の糸も解け、周りに倣って歩き出した。
その時、足元でぱさりと小さな音がした。見れば一冊の本が落ちている。
表紙は、碧色を主とし人魚のイラストが書かれ、銀色の文字で『人魚姫』と書かれている。
おそらくマイナーな御伽噺の一つだが、私も名前は聞いたことがある人魚姫の物語なのだろう。
無意識に本に向かって手が伸びる。
触れた指先に伝わるのは柔らかな革の感触。
その瞬間、胸の奥で、何かが静かに震えたような気がした。
本を拾い上げ立ち上がると、神覚者の1人、先ほど目があった炎の神杖カルド様が立っていて
本を手渡すと、カルド様は何事もなかったかのように歩いて行ってしまった。
いや、何事もなかったかのようにというか、気づきたくなかったことを知ってしまった、というのに近いのかもしれない。
平然とした顔を装う驚いた人のような態度だった。
正直釈然としない部分はあるものの私が興味を持ったのは別の部分で、その興味を持った部分というのは「神覚者様も童話とか読むんだ」だった。
正直、誰が何を読もうがその人の勝手ではある。
別に普段なら気に止めるようなことでもなかったはずなのに、なぜか気になってしまった
読んでみようかな
そう思うほどに
元々、私は恋愛小説をなぜか嫌厭してきた人間なので、そんなことを思ったことはなかったのに。
なぜだろう?
懐かしいと思ってしまった。
懐かしい要素なんて一つもないのに、まさかカルド様と実は幼馴染でした。みたいなベタな展開があるわけがない。
なんで、なのに、こんなに懐かしいんでしょうか?














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。