第18話

家族
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2023/10/14 12:40 更新
修学旅行から帰ってきたら、家に知らない人が居た。

母さんよりも随分年上の男の人と、ソファに寝転んでスマホを見ている女の人。

女の方は、恐らく俺ぐらいの年だろう。

最初は客だと思ったんだ。何も話しかけたりしなかった。



だが1週間以上家に居続ける彼らに、ようやく母と男がそういう関係なんだと気がついた。

ふと、彼女に視線が移る。他人からしたら兄妹に当たるであろう彼女に、自然と興味が湧いてきた。

「おい、お前」

話しかけると、彼女の顔が上がる。澄んだその瞳に長いこと見つめられ、思わず目を細める。

「…お前?」

何気に声を聞いたのは初めてだった。

少し低いその声に、やっと自分の方が年下なんだと気がつく。

「勝手に人の家に住み着いて、挨拶も無しとか」

イラついた口調で言うと、彼女は目をぱちくりさせる。

「…え、君私より年下だよね?ガラ悪〜、」

彼女がめんどくさそうに体を起こして座り込む。

「もう少し可愛い弟だったら楽しかったのにな〜」
いつの間にか両親は、俺らの世話を放棄した。

朝起きても作り置きのご飯があったら良い方だ。

「…ただいま」

受験勉強のため部活を引退した姉しかいない家に、ポツリと呟く。

「おかえり〜」

彼女は俺に対してあまり嫌悪感を抱いていないようで、話しかけたら普通に返してくれた。

お互い中学生のためろくにご飯も作れず、米だけ炊いて食費用に置かれた金で惣菜を買う。

これが日常になってしまった。

「湊、ご飯」

そう言われ、ゆるゆるとスマホの画面を切り、食卓に向かう。

「……あ、俺今日いらない」

「え?」

惣菜を置こうとした姉の手が止まる。

「え?いらないの?せっかく買ったのに」

「…惣菜とか不味いから」

「…あ、…そう」

言い方を間違えたと思う。ピキったようなその声に慌てたが、訂正はしなかった。
翌日体を起こそうとして、昨日よりも確実になった倦怠感に驚いた。

軽い風邪だろう。最近の食生活が問題だということはすぐに分かった。

眠い目を擦り、リビングに行く。

「…ご飯、」


何も反応が帰ってこないから、思わず顔を上げる。

明らかに聞こえてたはずなのに、完全に無視された。

ただでさえ頭痛が酷いのにイライラさせないで欲しい。

無言で投げ出されるように出されたご飯は、いつもと変わらない白米だった。

「……やっぱりいらない」

「……は、」

明らかに怒りの籠った1文字だった。

「…お腹すいてない」

「…ご飯って言われたからよそったんだけど」

姉が振り向かないまま言う。

……だって、食欲無いんだもん、体調悪い方に合わせろよ、

我ながら自己中心的すぎる考えに呆れてくる。

俺は黙ったままスクールバッグを持ち、姉を素通りして玄関を出た。
「……ぅ、」

思わず声が漏れて、椅子を引く。

…なんだこれ、すごいしんどい。頭痛で視界は眩み、キリキリと締め付けるような腹痛に呼吸がしずらい。

俺はゆっくりと机に伏せる。三学期最後だし大した授業では無かった。

結局1時間目から昼休みまで、それでやり過ごした。

本格的に吐き気を感じたのは、昼休み後の授業中。

給食は少ししか食べなかったが、それでも胃への負担は大きかったらしい。

「……、、瀬野?また寝てるのか」

4時間連続で顔を伏せた前科もあり、担任が苛立ったように声を荒らげる。

「……すみませ、」

少ししてから顔を上げ、くりくりと目を擦る。

「次寝たら課題増やすからな」

そう担任に釘付けされ、俺はため息をつきながらも緩慢に教科書を開く。少し読めば分かるような内容。

俺は瞬きを数回して、椅子に座り直した。




「…………ふ、……ゔ、」

授業の半ば、急に上がってきた吐き気に思わず口を抑える。

正直、だいぶしんどい。今すぐベッドで横になりたかった。

「……え、、湊?大丈夫、?」

後ろにいた友達が俺の様子に気づいて声をかける。

「……大丈夫」

抑えていた手をゆっくりと離し、平然を保った。

…が、それもほんの一瞬、

急に姿勢を変えたのが良くなかったのか、急激な吐き気が再び体を襲った。

ぶくぶくと胃の中身が逆流して、俯いて口を抑える。

……どうしよう、

微妙に椅子を後ろに引いて、そのまま固まってしまう。

「……おい、湊?」

後ろの友達がそれに気づき、ガタンと立ち上がる。

「……先生、こいつ保健室連れて行っていいですか」
クラスの視線が痛い中、やっとの事で教室を抜け出す。

「……お前、保健室まで歩ける?」

保健室まで……。

到底間に合う気がしなかったが、頭を振るわけにもいかずにこくりと頷いた。

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