久しぶりにした全力疾走はあまりにも惨めだと、走りながらでも分かった
運動は得意な方じゃないから正しいフォームなんて分かんないし、お世辞にも速いとは言えない
考え事をしながら走るという慣れないことをしているからかヤケに疲れるのも早い
さっきはあんなに言ったけどどうやって先手を打つかもまだ決めてない
とにかく考え続けた
時には嫌な未来とか想像して嫌な気分になるし、上手くいきそうだと思っても1つ大きな欠陥があったりした
もう頭の中ぐちゃぐちゃだ
瞬時に正しい判断
これがヒーローのモットーなんだろうけど
私は間違いのない判断がしたいの
それが勝利に導くものであろうとなかろうと、その場を打開するだけのものでもいい
私の意見でヒーローが活躍してくれるなら何でもいい
ぱっと見た感じ、その場にいるのは複数名のヴィランと、それと対峙している相澤先生
私の近くにはUSJの出入口があり、そこには13号先生の近くに複数名の生徒と霧のヴィラン
他の生徒はみんな私同様に散らばってる感じだ
今ここでこの場を打開できるのはヒーローのみ
現在ここにいるヒーローは相澤先生と13号先生のみ
オールマイトが遅れて来ると言っていたけれど、正確な時間が分からないのでオールマイト抜きで考えていくことにした
オールマイトがもし来ればそれは幸運とでも思うしか今はない
私が言っても足手まといにすらなれない
多少の援護はできても、相澤先生からすれば私は集中力を削ぐ原因でしかない
ならばとにかくヒーローを呼ぶしかない
確か上鳴くんが個性で通信できないか頑張ってたはず
その上鳴くんは今近くにいない...
.....かなり詰みに近い
可能性は半分以下だけど、誰かがヒーローを呼びに行くことが出来るのなら、その子に全て託そう
この個性はmessageつまり手紙のような役割を持つ花
渡し手に花弁が纏い、渡し手が受け手に接触できた瞬間にアイリスの花弁が効力を発揮する
効力は今のところ伝言くらいだけど、もし個性も乗せられるのであれば...
自分の個性がそこまで便利なものだとは思ってない
でも、もしできるのなら
もし私の力量がそれに足りなくても、私が頑張ってどうにかなるものなら
ヒーロー科1年A組ならここで諦めない
例えどうしようも無いことでもどうにかして足掻いてみせる
もしここで私がこれを達成できなかったとしても、私が足掻いて見せたら
私は雄英に来た
でも、少しだけ..ほんの少しだけまだ躊躇いが残ってた
みんなは本気で雄英に臨んできているのに、私はただ私の花を世界中に届けたいだけ
本気じゃない
そんな私が胸張って言えることなんてないんだと思ってた
でも
今までもそうだった
こんなんじゃ、いつかあの人に会った時に、何も自慢話出来ない
だから...せめて、
「私は雄英の1年A組にいるんだよ」って言いたいんだ
深く息を吸い
アイリスに花言葉を乗せる
durability...和訳すると永続性、耐久性
すると、私の言葉と共にアイリスの花弁が消えた
しかし、それと共に事態も急変した
遠くで相澤先生と謎の手まみれのきっしょく悪い男が戦っていたけど、きっしょく悪い男の手が相澤先生の肘に触れた瞬間、皮膚が崩れ落ちた
こんなのイレギュラーすぎる
あんな個性を所持しておいて初めから仕掛けてこなかったということは、それ以上の隠し球を持っているから余裕を持ってた、ってことになる
そうなると、現状もう私たちに抗う術は0に等しくなる
ふと13号先生の方を向くと、霧のヴィランが13号先生の身体を分解している所だった
流石に冷静さが欠かれるような現状に吐き気がした
どうしてこうも厄災が重なる
誰がこんなことをした
誰が悪い
どうでもいい事のはずなのに心からどんどん出てくる愚痴
焦ってる
みんな焦ってる
このままだと悪い方にしか転がらない
そう思った生徒が他にもいたのか、飯田くんが走り出した
しかし、足止めには手強すぎるヴィラン
逃がすまいとワープゲートを展開してきた
瞬時に飯田くんの背後でブローディアが開花し、霧を阻止した
その隙に残りのメンバーが霧に畳み掛けた
即興にしては中々のチームワークだと自惚れそうになったけど、咄嗟のガバガバチームワークだ
本番じゃそうはいかないけど
私はすぐに入口付近に駆け付け、みんなと集合した
一瞬だけど、アイリスの花弁が飯田くんに纏ったのが見えた
後は私の個性が上手く働いてくれれば、少しは勝利への道が近くなるはず...
その時、謎の音が微かに外から聞こえてきた
音は次第に大きくなり、仕舞いには
「ドォォォォン!!!」
扉を破壊した
でも、そんな事どうでもよかった
とりあえず勝率が上がったことは確かだ
誰もが願ったその時が来て
皆の表情が絶望から希望に変わった
ということはどうでも良く、ただ、私にはひとつ懸念すべき点がある
心の隅でぽつりと呟かれた言葉が現実になるなんて、思わないよ
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。