霧の中で、衝撃音が重なる。
私は少し離れた場所に立っている。
敦くんが虎とぶつかり合い、鏡花ちゃんが夜叉白雪の刃を受け止める。
遠く――姿は見えないけれど、黒い何かが暴れる音が響く。
芥川さんの戦場だ。
私は、何もできていない。
分かってる。
戦えない。
力もない。
でも。
何かできないかな。
落ちている瓦礫を見る。
霧の濃さを見る。
逃げ道、障害物、足場。
せめて、邪魔にならない位置に。
せめて、巻き込まれないように。
鉄パイプを拾ってみる。
重い。
使える気はしない。
それでも、何も持っていないよりはましな気がした。
ただ立ってるだけは、嫌だ。
――敦
虎の爪が振り下ろされる。
重い。
速い。
怖い。
分かってる。
これは僕だ。
僕の力。
僕の衝動。
受け止める。
押し返す。
でも視線は、無意識に後ろへ向く。
いる。
まだそこにいる。
鉄パイプなんて持って、何かしようとしてる。
動くなって言ったのに。
でも怒れない。
あの人は、何も分かってない顔で、
それでも逃げない。
それが、余計に怖い。
虎が横へ回り込もうとする。
瞬間、敦は強引に軌道を変える。
後ろへは、行かせない。
鏡花の言葉。
“あなたも、自分の役割をまっとうして”
役割は、虎を倒すこと。
それが、守ることになる。
怖い。
でも。
後ろにいるから、逃げない。
――鏡花
夜叉白雪の刃が迫る。
受け止める。
火花が散る。
冷たい目。
感情のない、自分の力。
この力は、私のものに戻る。
また使える。
また、血を流す側に戻る。
それは、怖い。
でも。
視界の端。
鉄パイプを握って、どうにかしようとしている姿。
危うい。
無防備。
守らなければ。
夜叉白雪があなたの方向へ角度を変える。
鏡花の目が変わる。
踏み込む。
斬り払う。
声は小さい。
でも決意は揺れない。
この力を取り戻す。
守るために。
――芥川
霧の奥。
黒と黒が激突する。
羅生門が牙を剥く。
僕は踏み込む。
背後の位置は見えない。
距離も分からない。
だが――
通させるわけにはいかない。
黒が霧を裂く。
衝撃。
押し返す。
声が霧に飲まれる。
届かない。
それでいい。
届く必要はない。
当然のことだ。
僕(やつがれ)が、ここで止める。
一歩も退かない。
――あなた
爆音。
振動。
霧の向こうで、誰かが叫んだ気がした。
でも聞き取れない。
みんな必死だ。
私は。
鉄パイプを握る手に力を込める。
何か。
何かできないかな。
戦えない。
力もない。
でも。
ここにいる以上、ただ守られてるみたいなのは、なんか違う。
違う、気がする。
敦くんが虎を押し返す。
鏡花ちゃんが夜叉白雪を追い詰める。
遠くで黒が爆ぜる。
みんな、自分と戦っている。
私はまだ、自分の何かとも戦っていない。
霧が揺れる。
誰も「守る」とは言わない。
でも。
その戦いは、確かに私のすぐそばで起きていた。
次回 ???















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。