第74話

言葉にしない理由
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2026/02/26 21:00 更新
霧の中で、衝撃音が重なる。

私は少し離れた場所に立っている。

敦くんが虎とぶつかり合い、鏡花ちゃんが夜叉白雪の刃を受け止める。

遠く――姿は見えないけれど、黒い何かが暴れる音が響く。

芥川さんの戦場だ。

私は、何もできていない。

分かってる。

戦えない。

力もない。

でも。
あなた
……何か
何かできないかな。

落ちている瓦礫を見る。

霧の濃さを見る。

逃げ道、障害物、足場。

せめて、邪魔にならない位置に。

せめて、巻き込まれないように。

鉄パイプを拾ってみる。

重い。

使える気はしない。

それでも、何も持っていないよりはましな気がした。

ただ立ってるだけは、嫌だ。
――敦

虎の爪が振り下ろされる。

重い。

速い。

怖い。

分かってる。

これは僕だ。

僕の力。

僕の衝動。
中島敦
中島敦
っ……!
受け止める。

押し返す。

でも視線は、無意識に後ろへ向く。

いる。

まだそこにいる。

鉄パイプなんて持って、何かしようとしてる。
中島敦
中島敦
(やっぱり……!)
動くなって言ったのに。

でも怒れない。

あの人は、何も分かってない顔で、

それでも逃げない。

それが、余計に怖い。

虎が横へ回り込もうとする。

瞬間、敦は強引に軌道を変える。

後ろへは、行かせない。
中島敦
中島敦
まずは……僕の役割をまっとうする!
鏡花の言葉。

“あなたも、自分の役割をまっとうして”

役割は、虎を倒すこと。

それが、守ることになる。

怖い。

でも。

後ろにいるから、逃げない。
――鏡花

夜叉白雪の刃が迫る。

受け止める。

火花が散る。

冷たい目。

感情のない、自分の力。
泉鏡花
泉鏡花
(倒せば、戻る)
この力は、私のものに戻る。

また使える。

また、血を流す側に戻る。

それは、怖い。

でも。

視界の端。

鉄パイプを握って、どうにかしようとしている姿。

危うい。

無防備。

守らなければ。

夜叉白雪があなたの方向へ角度を変える。

鏡花の目が変わる。

踏み込む。

斬り払う。
泉鏡花
泉鏡花
……あなたの相手は、私
声は小さい。

でも決意は揺れない。

この力を取り戻す。

守るために。
――芥川

霧の奥。

黒と黒が激突する。

羅生門が牙を剥く。

僕は踏み込む。

背後の位置は見えない。

距離も分からない。

だが――

通させるわけにはいかない。
芥川龍之介
芥川龍之介
僕の背後を狙うな!
黒が霧を裂く。

衝撃。

押し返す。
芥川龍之介
芥川龍之介
あの人を傷つけさせるわけにはいかん
声が霧に飲まれる。

届かない。

それでいい。

届く必要はない。

当然のことだ。

僕(やつがれ)が、ここで止める。

一歩も退かない。
――あなた

爆音。

振動。

霧の向こうで、誰かが叫んだ気がした。

でも聞き取れない。

みんな必死だ。

私は。

鉄パイプを握る手に力を込める。
あなた
……私も
何か。

何かできないかな。

戦えない。

力もない。

でも。

ここにいる以上、ただ守られてるみたいなのは、なんか違う。

違う、気がする。

敦くんが虎を押し返す。

鏡花ちゃんが夜叉白雪を追い詰める。

遠くで黒が爆ぜる。

みんな、自分と戦っている。

私はまだ、自分の何かとも戦っていない。

霧が揺れる。

誰も「守る」とは言わない。

でも。

その戦いは、確かに私のすぐそばで起きていた。
次回 ???

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