第75話

砕けた夜、現れた星
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2026/02/27 21:00 更新
霧が揺れる。

その揺れが、ほんの少しだけ強くなった。

虎の咆哮が、空気を裂く。

敦くんが押し返される。

地面に片手をつく。

次の瞬間、虎の爪が振り上がった。

間に合わない。

そう思った瞬間、足が動いていた。
あなた
敦くん!!
自分でも何をするつもりか分からない。

でも、叫びながら虎のほうへ駆け出す。

視界に入ったのか、虎の瞳がこちらを向いた。

ほんの一瞬。

敦くんから、私へ。

その隙に、敦くんが横へ転がる。

爪が地面を抉る。

間一髪だった。
中島敦
中島敦
なんで来るんですか!?
敦くんの声。

でも、もう止まれない。

虎が向き直る。

今度は、私に。

距離が一気に縮まる。
泉鏡花
泉鏡花
危ない!
強く腕を引かれた。

次の瞬間、体が浮く。

鏡花ちゃんが、私を抱えたまま跳んでいた。

直後、夜叉白雪の刃がさっきまで私がいた場所を薙ぐ。
あなた
え、ちょ……!
状況が追いつかない。

鏡花ちゃんは私を抱えたまま走る。

夜叉白雪が追う。

一直線に、こちらへ。

鏡花ちゃんが振り向きざまに受け止める。

衝撃で体勢が崩れる。

その拍子に、握っていた鉄パイプが手から滑った。

くるくると回りながら飛ぶ。

カンッ――

乾いた音。

夜叉白雪の額。

赤い宝石に、鉄パイプが直撃していた。

ひびが走る。

ぱきり、と音を立てて砕ける。

夜叉白雪の輪郭が揺らぐ。

霧に溶けるように、消えていった。
泉鏡花
泉鏡花
……
鏡花ちゃんが静かに息を呑む。

力が戻る。

空気が変わる。

敦くんが立ち上がる。
中島敦
中島敦
鏡花ちゃん!行けるよ!
二人が同時に虎へ向き直る。

今度は押している。

連携。

確実に追い詰める。

私はその場に立ったまま、呆然としていた。

今の、私……?

いや、落ちただけ。

偶然。

それより――
中島敦
中島敦
いける!
敦くんの声が響く。

虎が後退する。

鏡花ちゃんの刃が軌道を塞ぐ。

あと一撃。

そのとき。

霧が、わずかに揺れた。

ゆっくりと、そこに現れる。

私。

私と同じ姿。

同じ顔。

でも、目が違う。

静かで、遠くて、どこか痛みを含んだ目。
中島敦
中島敦
……え?
敦くんと鏡花ちゃんが一瞬だけ動きを止める。

ほんの一瞬。

すぐに視線を戻す。
泉鏡花
泉鏡花
今は後!
鏡花ちゃんが言う。

敦くんが頷く。

分離体を警戒しながらも、虎を追い詰める。

あと一撃。

敦くんの拳が振り下ろされる。

鏡花ちゃんの刃が走る。

その瞬間。

分離体が、一歩前に出た。
分裂体(星に願いを)
だめ
小さな声。

静かに。

空気が変わる。

霧が渦を巻く。

虎の動きが、わずかにずれる。

致命の一撃が逸れる。

衝撃だけが走る。

虎は、倒れない。

敦くんが息を呑む。

鏡花ちゃんの目が鋭くなる。

私は。

ただ、立ち尽くしていた。

何もしていない。

何も言っていない。

なのに。

あの“私”が、願った。

守るみたいに。

戦場の中心に、星が立っていた。
次回 ー星に願いを

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