小さな声が、霧の中に落ちた。
次の瞬間、敦くんの拳がわずかに逸れる。
鏡花ちゃんの刃も、決定打にはならない。
虎は、倒れない。
霧の向こうに立っている“私”。
同じ顔。
同じ姿。
でも、目が違う。
静かで、遠くて。
宝石に、ひびが入っている。
さっきまでなかったのに。
ほんの少しだけ、体が揺れた気がした。
でも、すぐに何事もないみたいに立ち直る。
敦くんと鏡花ちゃんが一瞬だけ視線を向ける。
すぐに虎へ戻す。
鏡花ちゃんは分裂体のほうへ、敦くんは虎の方へ向かう。
追い詰める。
今度こそ。
敦くんが踏み込む。
鏡花ちゃんが刃を振るう。
そのとき。
“私”が、ふっと笑った。
安心したみたいに。
やりきったみたいに。
なんで?
なんか、変。
でも、悲しい感じじゃない。
むしろ、ほっとした顔。
「よかった」って言ってるみたいな。
鏡花ちゃんの動きが、わずかに止まる。
敦くんの表情も固くなる。
でも、すぐに刃が振り下ろされる。
硬い音。
宝石にひびが広がる。
もう一撃。
ぱきり、と砕けた。
“私”の姿が、霧に溶けていく。
最後まで、穏やかだった。
消える直前。
視線が合う。
怒ってない。
苦しそうでもない。
ただ、優しい。
そして、消えた。
同時に。
胸の奥に、何かがすっと落ちてきた。
びっくりするくらい自然に。
冷たくない。
痛くない。
ただ――
暖かかった。
ほっとするみたいな。
懐かしいみたいな。
息が、少し楽になる。
なんだろう、今の。
でも。
敦くんの拳が虎を砕く。
鏡花ちゃんが着地する。
私は息を吐いた。
本心だった。
本当に。
でも。
敦くんと鏡花ちゃんは、どこか静かだった。
さっきの微笑みを、まだ見ているみたいに。
私はただ、
胸に残る暖かさを、不思議に思っていた。
短くてごめんなさい🙇♀️












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。