実際、確かに梨咲と話しているときは首を傾げてばかりだった。
それも仕方ない。梨咲は私の想像の斜め上の発言をする。
私の無意識のうちの行動までも梨咲は気付き、私を理解しているんだ。
この前の涼先輩のことだってそう。
私は自分の感情に気付いてなかった。それなのに…
ってあれ??
この言い方だと、私が本当に先輩を好きで、
でも自覚していなくて、それを梨咲が気付いていたってことにならないか?
それは違う。私にとっての涼先輩は…
涼先輩のことについて考えていた時に、
梨咲が先輩の名前を口にするから、
思わず変な声が大音量で私の口から飛び出た。
今丁度、先輩のことについて考えてたから。
……なんて。
そんなことを言ったらまた梨咲に誤解されてしまう。
先輩がどこを見て選んでくれたのかは分からないけど、
仮にも結果的には私が一年生の代表になったことになる。
それを頑張らなかったら、
周りの一年生にも悪いし、選んでくれた先輩にも悪い。
だからそこに涼先輩かどうかは関係ない。
梨咲は納得がいっていないかのように口を尖らせた。
そんな梨咲の態度に私がつっこもうと思ったそのとき。
練習場の外から足音が聞こえた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!