第41話

特別編 第六章 シアワセ
906
2021/06/07 11:15 更新
僕は本殿の扉をゆっくりと開けた。
あけみ
あけみ
ながつきの――――
赤ん坊
ウギャァウギャァ!!
ななもり。
ななもり。
返して……返して……
ななもり。
ななもり。
俺の子供を返して……
ななもり。
ななもり。
返して!!


たくさんの情報が走馬灯のように流れる。


今のはなんだったんだ。
誰の記憶なんだ?

ここは一体何なんだ?
赤い器に赤い水がある。

おみくじを赤い水に浸すと、
文字の一部に色がついた。
おみくじに浮き出た文字を
箱のダイヤルを回して入力した。
すると、箱が開いた。
ころん
ころん
時戻しの書?
“鏡”に時の写しを浮かべ
生者の血を垂らし
拍手を打って唱えよ


――時を戻し給えと―――
ころん
ころん
時を戻す?
どんなSFだと思ったが、
その巻物を無視することは出来なかった。
不思議な力を感じる。

このまま帰ることは出来ない。
あと少しで分かりそうなのだ。

イミゴのことが、そして僕自身のことが。
赤子の写真だ。
ころん
ころん
………
もう一人は僕だ。
そしてもう一人は………。
彼岸の庭に行った。

鏡池をじっと覗き込む。

僕は時戻しの書を手に取った。
イミゴ
イミゴ
待って!!
イミゴ
イミゴ
待ってころちゃん!
お願いだから待って下さい!
ころん
ころん
イミゴ
イミゴ
イミゴ
はぁ……はぁ……急にいなくなったから心配したんですよ!そっちは危ないからこっちへ来て下さい
ころん
ころん
…………
イミゴ
イミゴ
ころちゃん、ほら早く
ころん
ころん
イヤだ
イミゴ
イミゴ
ころちゃん!
ころん
ころん
何も知らずに帰れって言うんでしょ
イミゴ
イミゴ
どうしたんですか?
帰るの目的でしたよね?
ころん
ころん
もし、僕がここに誘われて
閉じ込められたのが、
偶然じゃなくて必然だったら
ころん
ころん
僕だけ何も知らずに日常に戻るの?
ころん
ころん
何が起きたのか自分でも分かんない
もう少しで分かりそうなのに……
イミゴ
イミゴ
ころちゃん、何を知ったの?
ころん
ころん
何も知らない!
ころん
ころん
お前は誰なの、イミゴ!
イミゴ
イミゴ
……僕はただのイミゴです
ころん
ころん
嘘つけ
イミゴ
イミゴ
ころちゃん、お願い。聞き分けのないことを言わないで下さい。ころちゃんはここから帰らなきゃいけないんです
ころん
ころん
どうして?
イミゴ
イミゴ
ころちゃんは、此岸で大切な人と
一緒に生きるべきだから
ころん
ころん
どうしてイミゴが僕の人生を断言するの?僕は知りたいのに!
ころん
ころん
教えてよ
僕がどうして神社に呼ばれたのか
イミゴ
イミゴ
……言いたくない
ころん
ころん
理由は?
イミゴ
イミゴ
言えない。だって言ったら
ころちゃんは僕を見捨ててくれない
イミゴ
イミゴ
僕はころちゃんの意思を無視して
自分の気持ちを貫いた。
イミゴ
イミゴ
だから絶対に言わない
イミゴ
イミゴ
言ってしまったら、僕は僕を許せない
お願いだから帰って下さい
ころん
ころん
教えてくれるまでここを動かない
何も知らずに帰りたくない
イミゴ
イミゴ
…………帰って
ころん
ころん
帰らない
イミゴ
イミゴ
…………帰ってよ
ころん
ころん
教えてよ
ころん
ころん
お前は誰なんだ?
僕は何なんだ?
イミゴ
イミゴ
………帰って!!
ころん
ころん
真実なら全て受け止める、だから!
イミゴ
イミゴ
やめて、やめて!
イミゴは激しく頭を振る。
イミゴ
イミゴ
真実を知って大人しく帰ってくれますか?いや、ころちゃんはそんなこと
出来ないよ
イミゴ
イミゴ
どうしようもないお人好しだから、そうですよね。だから我慢してたんですよね。なんて愚かな子
ころん
ころん
イミゴ?
うわ言のようにブツブツと呟いている。
誰と話してるの?
イミゴ
イミゴ
やめて!出て行って!
イミゴが叫ぶと、
ガクッと体を震わせて静止した。
ころん
ころん
イ、イミゴ……?
イミゴ
イミゴ
そんなに帰りたくないんですね
イミゴ
イミゴ
じゃあ……
イミゴ
イミゴ
全てを知って僕達と一緒になろう?
イミゴの様子がおかしい。
声色が変わった。
まるでイミゴじゃないみたいだ。
イミゴ
イミゴ
ねぇ、ずっと一緒に居てくれる?
イミゴが微笑む。恐怖で足がすくんだ。
さとみ
さとみ
いいんじゃないか
俺は歓迎するよ
いつの間にか背後にはさとみさんが立っていた。
後ろは大きな池だ。どうやってここに?
イミゴ
イミゴ
邪魔をするな
さとみ
さとみ
ころんまで取り込むのは贅沢だな
少しは俺に残してくれよ
何の話をしてるの?
さとみ
さとみ
こんなものを持って、危ないぞ
ころん
ころん
あっ!
時戻しの書を取られる。
ころん
ころん
返せ!!
取り戻そうと手を伸ばすが、
さとみさんは巻物を池に放り投げた。
さとみ
さとみ
真実を知るためには必要ねぇものだ
ころん
ころん
離せ!このっ!
イミゴ
イミゴ
ころん……ああ、やっと一緒になれる
イミゴが手を伸ばして近付いてくる。
その様子は僕が知ってるイミゴじゃなかった。
イミゴ
イミゴ
ころん、ころん……俺の大切な……
ころん
ころん
うっ、イミ、ゴ……
イミゴ
イミゴ
やっと“返って”きた
これからずっと一緒だよ、ころん
イミゴ
イミゴ
俺が守るから
意識が遠のいていく。
声はただひたすら甘く心地よい。

その声に身を委ねてしまいたい。

この温もりをずっと求めていた気がする。
さとみ
さとみ
さぁ、一緒に行こう
イミゴ
イミゴ
みんなでシアワセになろう









視界が真っ暗になった時、
一輪の水色の彼岸花が浮かび上がった。
水色の彼岸花
水色の彼岸花
本当にそれで良かったの?
僕と全く同じ声が響いてくる。
水色の彼岸花
水色の彼岸花
僕はこんなんじゃいられない
水色の彼岸花
水色の彼岸花
僕は彼に救ってもらわなきゃ
ころん
ころん
救って……もらう……?
水色の彼岸花
水色の彼岸花
あの幻覚を見たなら分かるでしょ?
るぅとという黄色い髪の子と
僕が仲良く生きてた世界……。
水色の彼岸花
水色の彼岸花
あれを実現するのは僕には出来ない
水色の彼岸花
水色の彼岸花
だから僕が彼を支える
水色の彼岸花
水色の彼岸花
やり直して
水色の彼岸花
水色の彼岸花
大切な弟のために

プリ小説オーディオドラマ