ーあなたsideー
驚いて大きな声出しちゃった…。
私の顔の目の前に、少し目付きの悪いお兄ちゃんがいた。
私の周りには5枚程の毛布がかかっている。
…あれ、わたし…お外にいたのに。
命の恩人であるお兄ちゃんに笑いかけた。
すると、お兄ちゃんはなぜか顔を覆った。
どうやら、悪い人ではなさそう。
後ろから2人の大人の人が出てきて少し竦んでしまう。
優しそうなお兄ちゃんと、茶髪のやんちゃそうなお姉ちゃん。
気さくに話しかけてくれた。
一気に緊張が逸れる。
3人は仲が良さそうだ。
ゴツンっと音が鳴る。
その横で、ファーランお兄ちゃんが笑いを堪えた。
2人は、もう寝るね〜!と言って寝室へ戻っていく。
私のために起きていてくれてたから、きっと眠いんだ。
そしてここはリヴァイお兄ちゃんの部屋だったようで、ふたりきりになってしまった。
沈黙が続いた後、お兄ちゃんが口を開く。
私はパパのことを思い浮かべて活きいきと話した。
それなのに、お兄ちゃんの表情はどんどん曇っていく。
まるで、絶望したような哀れむような。
どうしてだろう。
すると、頭を撫でられた。
舌打ちをして、私を抱きしめた。
そこで私は気づいた。
初めて、人に抱きしめられたこと。
ずっと、このあたたかさを求めていたことを。
背中を何度もさすってくれる。
お兄ちゃんは石鹸のような良い匂いがして、
なんだか涙がぽろぽろと出てきた。
…本当は気づいてた。
パパに捨てられたっていうこと。
30分で戻ってくると言ったパパが、あんなに遅れるはずがない。
信じたいけど、それでも不安になったの。
パパの不倫でママが出て行ってから、私にはパパしかいなかったの。
助けてもらって、そこまでさせるわけにはいかなかった。
お兄ちゃんは更に眉間に皺を寄せて私の目を見る。
ごもっともだ。さっきもお兄ちゃんに助けてもらわなければ死んでいた。
なんて、なんて良い人なんだろう。
こんなに優しい場所があるなんて知らなかった。
お兄ちゃんは笑った。すごく、安心する笑顔だった。
感謝しても、しきれない。
涙も、いつの間にかおさまっていた。
ろくそくの灯りが揺れる。
その空間は夢のようだった。
しゃがんで、私の頬をゆっくりと撫でた。
固まってしまった涙をとっているようだ。
最初は怖い目つきなんて思ったが、その瞳は、誰よりも優しい。
なぜか顔が火垂る。少しだけ恥ずかしい。
幸せ、幸せ?
すると、お兄ちゃんの顔も紅くなった。
私に興味も持たず、1日パン一つしかくれなかったパパとの暮らしとは違う。
きっと、これが幸せということなんだね。
紅茶をフーフー冷ましてから、私にくれた。
ごく…
なんだか、苦くて大人の味がする…
けど、
飲み終わると、お兄ちゃんは私をお風呂へ連れて行った。
お風呂は今までいた家のと違ってすごく綺麗だった。
信じられない量の石鹸がある。
もしかして、綺麗好きなのかな?
そんなことを思いながら、汚れた体を洗い流した。
着替えは、お兄ちゃんの白いシャツを借りた。
良い匂いがする…
そう言われ、髪の毛をぐしゃぐしゃっと拭かれた。
こんなに幸せな夜は初めてだ。
ーリヴァイsideー
この天使みたいなガキを育てることにした。
にしても、あなたを捨てた父親を殺したい。
…娼館の前に捨てたのも、憲兵に見つかり自分が逮捕される前に、働かせようといった算段だろう。
客や店主があんな美形を見逃すわけがねぇ…。
もし連れて来なかったらと考えると恐ろしい。
こんな、純粋無垢でいたいけなあなたに…穢らわしい地下街は似合わない…
心からそう思った。少し会話しただけでも、性格の良さがわかる…。
俺の腕の中で本音を出して泣く姿、
紅茶を大事そうに飲む姿や、
素直な返事。
何より、風呂からあがったときだ。
…こんな俺に、笑いかけてくれた。
地下街で失った信頼や汚れた心が浄化されたようだ。
あなたという希望があれば、俺は…もしかしたら、こんな世界から、抜け出せるかもしれない。
不覚にも、可愛くて仕方ないと思ってしまった。
初対面のガキに、ここまで絆されるなんて柄じゃねぇのに…
名前を呼ばれるだけで心が満たされる…
絶対、絶対あなたを守り抜く…
そして、地上で穏やかな生活を送りたい。
あなたを抱き上げ、ベッドに連れて行った。
そして、2枚の布団を被せる。
白雪姫、あなたが抱えていた絵本のことか。
濡れていたから乾かしておいた。
…父親のことは、早く忘れて欲しかった。
けれど、あなたにとってはそんな苦しい記憶も大事な思い出なのかもしれねぇ…
俺は、机の上に置いておいた本を持ってきて、足の間にあなたを入れて読み聞かせた。
本は意外と早く読み終わる。
俺は童話なんて初めて読んだが、死んだお姫様を王子様が助けに来る、というベタな内容だった。
しかし、あなたは目を輝かせている。
さっきよりも大きな笑顔で憧れを語っている。
このくらいの年のガキには、こんなやつがモテるんだな。
目を丸くしてしまった。
まさか、そんな小っ恥ずかしいことを言われるとは。
あなたが可愛くない、だと?
そんなわけあるか。
そう言ってあなたの腹に手を回して抱き寄せた。
小柄だといじられる俺からしても、小さすぎる体だった。少し触れたら壊れてしまいそうなほど…。
多分だが…ここまであなたに俺が執着したがるのは…初めて守りたいものができて、嬉しかったんだ…。
あなたは戸惑った。
そして俺は、そのまま寝てしまったらしい。
その日は、今までで一番よく眠れた。
…どうも、作者です!
なんかリヴァイがロリコンみたいになってますけど違いますからね!
ただ、妹のように可愛がってるだけです。
まあ、夢主が成長したら恋してしまうんですけどねぇ…w
長編になると思うので、よろしくお願いします💓
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。