第19話

……それぐらい知ってるっつーの
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2021/06/03 21:53


〜白布side〜


……おかしい。



いつもなら、着くはずのLINEの既読が未だに着いていない。




今日は、部活後の牛島さんの自主練にお邪魔させてもらい、帰りが遅くなってしまった。




??「賢二郎〜、どしたの?ムズカシイ顔してさー?」



後ろから声がして振り返ると、予想通りの人物が俺のスマホを覗き込んでいた。





白布「天童さん、お疲れ様です。」



天童「ん〜?もしかして、彼女チャンから『お疲れ様』のLINEかなぁ?今度、紹介してネww」



天童さんは、いつものようにふざけて絡んでくるため、いつものように「違いますって」と否定をする。





天童「そーいえば、あなたのあなたチャン元気??3年になってから会ってないからさ〜」



白布「まぁ、基本公式戦の応援来るぐらいですからね。」



天童さんと話しながら、自分の荷物を片付けていると、後ろから「白布」と呼ばれた。




白布「牛島さん、どうかしましたか…?」


牛島「いや。ただ、今日のあのトスのイメージで、今週の練習試合も頼むと伝えようとしただけだ。」



白布「分かりました。ありがとうございます!」






天童「アッレ〜??もう帰っちゃうの?」


ジャージを羽織り、肩にエナメルバッグをかけ、体育館を出る直前に天童さんに声をかけられる。



瀬見「天童もいちいち面倒だぞ。それに、俺たちと違って自通なんだから、早くて当然だろ。」


白布「すみません…今日は早く帰った方がなんか良さそうなので。」



瀬見「気をつけて帰れよ!」



白布「ありがとうございます。皆さんもお疲れ様でした。」






電車に乗りながら、何度かトーク画面を見返すが、既読は着かないまま。



宿泊研修で疲れて寝てるだけならいいんだけど……。







白布「ただいま…」


思っていた通り、家の奥からいつも聞こえる「おかえり〜」の声は、今日は聞こえなくて。


代わりに静寂だけが、俺を出迎えた。






ガチャっ



明かりの漏れていたリビングのドアを開けると、1番に視界に入ってきたのは、ソファーの腕置きに頭を預けるあなたのあなたの姿だった。




……寝てるのか?



俺はあなたのあなたを起こさないようにそっとキッチンに行くと、蓋をしたフライパンからチラッと麻婆豆腐が見えた。




白布「疲れてるのに……いつも無理ばっかしやがって。」





他の誰に向けた訳でもない、ただの独り言。




奥の部屋から毛布を持ってくると、ソファーに寝転がっているあなたのあなたにそっとかけた。




あなたのあなたの髪は、うつ伏せになって寝ていたために前にこぼれていて、


俺はそのサラサラの髪を、慣れた手つきでスっと耳にかける。





ったく、安心しきったようにこんなに無防備に寝てるし。学校でもこんな風にしないよな……?




と、そこで俺は初めて気がついた。




髪で隠れていたあなたのあなたの顔は、いつも以上に赤く火照っていて、うっすらと汗が浮かび上がっていることに。



白布「あなたのあなた……、」




俺は、思わずあなたのあなたのおでこに手を伸ばしていて、



おでこに触れた手のひらを離しても、まだあなたのあなたの熱が離れなかった。










あなたのあなた「ん……」



ちょうど俺がおでこに触れたタイミングか、あなたのあなたがモゾモゾっと体を少しよじらせてから、重そうな瞼をゆっくりと開ける。




白布「……ごめん、起こしたな。」



そう謝る俺を目を見つめると、




あなたのあなた「お兄ちゃん、おかえり……っ」



熱におかられる体を抑えながら、不器用ながらにも頬を上げてそっと笑った。






白布「そんなこと言ってる場合じゃないだろ……」




「お前、なんでこんなに熱_______」と俺が問いただそうとすると、ソファーからゆっくりと上半身を起き上がらせた。



あなたのあなた「大丈夫だよ…、ちょっと疲れて、寝てただけ、だから……」




大丈夫という言葉と裏腹に、あなたのあなたの声はいつもよりのんびりとしていて。




白布「ほら、寝るなら自分の部屋で寝ろ。」


俺はおんぶしようとして、あなたのあなたの前に屈んだ。けど、いつまで経っても俺の背中は空っぽのままだった。



白布「…早く乗れよ」


あなたのあなた「んん…、自分で行ける……」





……いや、絶対無理だろ。




白布「どうせ、迷惑かけたくないとかだろ?…今更気使うなよ。」




そう言ってもあなたのあなたが背中に乗る気配はなく。



俺は小さくため息をついて立ち上がると、ソファーの背もたれとあなたのあなたの背中の間に腕を入れて、座っている脚を下からすくい上げた。




あなたのあなた「ちょっ…お兄ちゃんっ……?」



白布「…大人しくしてろ。」




そのまま強引にあなたのあなたを抱き上げて、あなたのあなたの部屋へと運ぶ。




コイツ、同じ飯食べてる割にはやけに軽くないか…?



食事関連は全てあなたのあなたに任せっきりにしているし、あいつ自身料理とか栄養バランス考えるの好きっぽいから…、ちゃんと自分の健康管理もできてると思っていた。





_______けど、いつまで経っても無理し続けるのは変わんないのか……。






あなたのあなた「…いつも、ごめんね……?」



耳元で、かすれた声が聞こえる。



白布「“ごめん”より“ありがとう”の方が、聞きたいんだけど。」



あなたのあなた「ん、、そう、だよね…」




“お兄ちゃん”と呼ぶ声がして



顔を向けると、



俺が一生守ると誓ったその子は




優しくはにかんで笑った






あなたのあなた「…いつも、ありがとう。…大好きっ……」













白布「……それぐらい知ってるっつーの、バカ…/」




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