〜白布side〜
……おかしい。
いつもなら、着くはずのLINEの既読が未だに着いていない。
今日は、部活後の牛島さんの自主練にお邪魔させてもらい、帰りが遅くなってしまった。
??「賢二郎〜、どしたの?ムズカシイ顔してさー?」
後ろから声がして振り返ると、予想通りの人物が俺のスマホを覗き込んでいた。
白布「天童さん、お疲れ様です。」
天童「ん〜?もしかして、彼女チャンから『お疲れ様』のLINEかなぁ?今度、紹介してネww」
天童さんは、いつものようにふざけて絡んでくるため、いつものように「違いますって」と否定をする。
天童「そーいえば、あなたのあなたチャン元気??3年になってから会ってないからさ〜」
白布「まぁ、基本公式戦の応援来るぐらいですからね。」
天童さんと話しながら、自分の荷物を片付けていると、後ろから「白布」と呼ばれた。
白布「牛島さん、どうかしましたか…?」
牛島「いや。ただ、今日のあのトスのイメージで、今週の練習試合も頼むと伝えようとしただけだ。」
白布「分かりました。ありがとうございます!」
天童「アッレ〜??もう帰っちゃうの?」
ジャージを羽織り、肩にエナメルバッグをかけ、体育館を出る直前に天童さんに声をかけられる。
瀬見「天童もいちいち面倒だぞ。それに、俺たちと違って自通なんだから、早くて当然だろ。」
白布「すみません…今日は早く帰った方がなんか良さそうなので。」
瀬見「気をつけて帰れよ!」
白布「ありがとうございます。皆さんもお疲れ様でした。」
電車に乗りながら、何度かトーク画面を見返すが、既読は着かないまま。
宿泊研修で疲れて寝てるだけならいいんだけど……。
白布「ただいま…」
思っていた通り、家の奥からいつも聞こえる「おかえり〜」の声は、今日は聞こえなくて。
代わりに静寂だけが、俺を出迎えた。
ガチャっ
明かりの漏れていたリビングのドアを開けると、1番に視界に入ってきたのは、ソファーの腕置きに頭を預けるあなたのあなたの姿だった。
……寝てるのか?
俺はあなたのあなたを起こさないようにそっとキッチンに行くと、蓋をしたフライパンからチラッと麻婆豆腐が見えた。
白布「疲れてるのに……いつも無理ばっかしやがって。」
他の誰に向けた訳でもない、ただの独り言。
奥の部屋から毛布を持ってくると、ソファーに寝転がっているあなたのあなたにそっとかけた。
あなたのあなたの髪は、うつ伏せになって寝ていたために前にこぼれていて、
俺はそのサラサラの髪を、慣れた手つきでスっと耳にかける。
ったく、安心しきったようにこんなに無防備に寝てるし。学校でもこんな風にしないよな……?
と、そこで俺は初めて気がついた。
髪で隠れていたあなたのあなたの顔は、いつも以上に赤く火照っていて、うっすらと汗が浮かび上がっていることに。
白布「あなたのあなた……、」
俺は、思わずあなたのあなたのおでこに手を伸ばしていて、
おでこに触れた手のひらを離しても、まだあなたのあなたの熱が離れなかった。
あなたのあなた「ん……」
ちょうど俺がおでこに触れたタイミングか、あなたのあなたがモゾモゾっと体を少しよじらせてから、重そうな瞼をゆっくりと開ける。
白布「……ごめん、起こしたな。」
そう謝る俺を目を見つめると、
あなたのあなた「お兄ちゃん、おかえり……っ」
熱におかられる体を抑えながら、不器用ながらにも頬を上げてそっと笑った。
白布「そんなこと言ってる場合じゃないだろ……」
「お前、なんでこんなに熱_______」と俺が問いただそうとすると、ソファーからゆっくりと上半身を起き上がらせた。
あなたのあなた「大丈夫だよ…、ちょっと疲れて、寝てただけ、だから……」
大丈夫という言葉と裏腹に、あなたのあなたの声はいつもよりのんびりとしていて。
白布「ほら、寝るなら自分の部屋で寝ろ。」
俺はおんぶしようとして、あなたのあなたの前に屈んだ。けど、いつまで経っても俺の背中は空っぽのままだった。
白布「…早く乗れよ」
あなたのあなた「んん…、自分で行ける……」
……いや、絶対無理だろ。
白布「どうせ、迷惑かけたくないとかだろ?…今更気使うなよ。」
そう言ってもあなたのあなたが背中に乗る気配はなく。
俺は小さくため息をついて立ち上がると、ソファーの背もたれとあなたのあなたの背中の間に腕を入れて、座っている脚を下からすくい上げた。
あなたのあなた「ちょっ…お兄ちゃんっ……?」
白布「…大人しくしてろ。」
そのまま強引にあなたのあなたを抱き上げて、あなたのあなたの部屋へと運ぶ。
コイツ、同じ飯食べてる割にはやけに軽くないか…?
食事関連は全てあなたのあなたに任せっきりにしているし、あいつ自身料理とか栄養バランス考えるの好きっぽいから…、ちゃんと自分の健康管理もできてると思っていた。
_______けど、いつまで経っても無理し続けるのは変わんないのか……。
あなたのあなた「…いつも、ごめんね……?」
耳元で、かすれた声が聞こえる。
白布「“ごめん”より“ありがとう”の方が、聞きたいんだけど。」
あなたのあなた「ん、、そう、だよね…」
“お兄ちゃん”と呼ぶ声がして
顔を向けると、
俺が一生守ると誓ったその子は
優しくはにかんで笑った
あなたのあなた「…いつも、ありがとう。…大好きっ……」
白布「……それぐらい知ってるっつーの、バカ…/」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。