インカムの方に、スティックのカウント音が入る。
それを合図に、思いっきり腕を振り下ろした。
瞬間、頭のてっぺんからつま先まで鳥肌が走る。
客席から観た時とは、全然違う。
たしかにあの時も、熱くて、胸が震えていた。
だけど、この感覚はなんだろう…………………………
少しでも油断すれば、みんなが作った熱に燃やされる。
ゆらゆら揺れるペンライトの渦に、観客の声援に。
気づくと、身体が勝手に動き出していた。
思うままに、思いっきり、弦に触れて音を響かせる。
飲まれない、油断しない、巻き込まれない。
飲まれそうなら、私が周りを飲み込ませるだけ!
すごい……………………みんなの声、また盛り上がってきた!
負けられないって気持ち、伝わってくる。
私も負けないからね、みんな!!
次がサビ。ここで…………………
思いっきりジャンプして、一気に振り下ろす………………っ!!
全身がビリビリして、ドキドキして…………………
ライブって、こんなに楽しいんだ!!
私、今、ずっと憧れてたステージに立ってる。
なんか、夢みたいだ。
このままずっと、終わらなければいいのにな。
いつまでも、ここで弾き続けていたい!
楽しすぎて、語彙力吹っ飛びそう。
気づいた時には、曲が終わっていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!