吹き抜ける風がぬるくて気持ちが悪い。雨上がりのじめじめした空気は、なんとも言い難いものだった。
普段なら「今日も雨か」だとか「明日は晴れるといいね」だとか話しているのだろうが、今はそんな呑気な話ができる雰囲気ではない。
だって僕たち2人は今死のうとしているのだから。
つい最近までは梅雨明けはいつだとか、明日は大雨だとか、そういう天気の話で一喜一憂していた僕たちだが、もう今からは天気なんて関係ない。
だって僕たち2人は今死のうとしているのだから。
高い高いビルの上。今なら月に手が届きそうだ。
ここまで来たものの、死ぬのが怖くないわけじゃない。正直震えは止まらない。
我慢していた気持ちが、言葉が、涙と一緒に溢れる。
自分勝手なのはわかってる。そもそもお互い自分勝手だ。
その目は、今までで一番優しいものだった。
「愛してるよ」その単語を口にする前に、和雨の姿はもうフェンスの向こう側にあった。
その瞬間、和雨は空に落ちて行ったのだ。
後を追わなきゃ、わかっているのに足が動かない。
行かないで、逝かないで、和雨。僕から離れないで。僕を独りにしないで⋯。
階段を駆け下りて、すぐに和雨の元へ行った。幸い、僕が上にいる間に誰かが救急車を呼んでいた。
和雨の身体はまだぬるかった。
だが和雨は、搬送先の病院で死亡が確認された。
今頃和雨は1人で泣いているのかな、今の僕の方が泣いている気がする。失った悲しみと死ねなかった悔しさ、1人で逝かせた罪悪感が一気に込み上げてくる。
吐き気が止まらないまま、和雨の両親とも顔を合わせずにそのまま家に帰った。
スマホを開くと、天気予報のアプリが開かれていた。
天気なんて関係ないと思ってた。
だって僕たち2人は今死のうとしていたのだから。
僕の心の梅雨は、いつ開けるんだろう。
ねえ、今もまだ見てますか?
忘れないでください。
僕だって貴方を忘れません。
他にいい人を見つけても、絶対に。
貴方のことを一生忘れることはありません。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。