第4話

親方は来ない(切実)
320
2026/01/07 07:38 更新














































































太宰
………へぇ、自首ねぇ
あなた
国木田
おい、ちょっと待て
国木田
一体何を言っている
国木田
一般人がそんなっ__
太宰
__国木田君
太宰
後は私に任せて
国木田
だがッ
太宰
私がこういう時、一度でも
失敗した事があったかい?




微笑んで紙を渡すと
眼鏡の男は噛み締めた様な表情で紙切れを握りしめた。



















国木田
………貴様、“また” か
太宰
良いから














































太宰
さて、あなたの名字さん
あなた
…………



あなたの名字は苦々しくも億劫な表情で
何も話さず俯いている。



























太宰
先ずは落ち着き給え
太宰
問い詰める気も捉える気も此方には無い
あなた
……………じゃあ……何を
太宰
__話してくれるかな
太宰
心当たりがあるんだろう
あなた






国木田
………大事にはするなよ




そう言って眼鏡の男はその場を去った____





















































































































太宰
…彼、面白いだろう?



___月明かりの照る薄暗い倉庫。今日は満月らしい

スマホのデジタル時計は23時を指している






向かいに座る男が、何か本を手に持って
此方に尋ねていた

対して、遠く離れた隅に一人、体操座りのあなたの名字は顔を膝に埋め込んで裾を握りしめている












































あなた
そう言えば、まだ……
名前も聞いていませんでした
あなた
………貴方と彼は、なんて名前なんですか



あなたの名字の目は、自然と
虚ろな空虚感に溢れる瞳に戻っていた。











































太宰
私は太宰
太宰
太宰治だ
太宰
そして彼は国木田独歩



あなた
……良い名前ですね
  
























太宰
君、やたらと名前に拘るよね
太宰
何か噂と関係があるのかい
あなた
……

  



あなた
……私の名前は、
あやが付けてくれたんです
太宰
…あや?
あなた
友人の名前です
あなた
とても、良い子なんですよ


太宰
…どんな子?
太宰
聞かせてよ
あなた

























































































































_____幼い頃。

両親には、生まれて一度も
名前なんてものを呼ばれた事など無かった

義務教育も満足に出来ない環境下だった事もあって、
名前の事は、十歳になる迄気付かなかった。


繰り返される飢餓状態、罵詈雑言の嵐、
身体中に増える火傷と傷の後

虐待やネグレクトは日常的


もはや生きたいなんて思えなかった。







努力は報われるって言う。


ただそんな事が分かっていた所で、
出来なければ、何の意味も無い

そんなのは成功者の言葉で、なじられた経験も、
殺されかけるまで殴られた経験も無い人間の言葉だ

















 

____ただ、そんな人間の輪の中に、
足を踏み入れたいと思わない訳じゃなかった。




























































___確か十ニ歳の頃。
1月前半、風が強い真冬の季節



家の外へ、放折出された。
襤褸切れ一つの状態で、酷く肌が悴んだ

肺奥から凍り付くように寒さを感じる中、息は
震え上がり、感覚は指先から段々と薄れた。


恐怖より、苦痛より、疑心があった





暖かな雰囲気の家に、親子が手を繋ぎ合って、他愛もない話をして、笑って、歩いて、家へ入って行く様を

霞んでいく目で強く見つめる





あれが、普通なんだろう





きっと、美味しいものが食べられるんだろう






腐った塵やゴミを、口に突っ込まれる事も無いのだろう






煙草を腕に擦り付けられる事も無いんだろう




































なんで、私は、普通じゃ無いんだ






























生まれる場所も、人も、親も、選べないのなら


生死くらいは選ばせて欲しい




 




































































その時、一人の女の子が、私の手を握った。







手には割れた瓶の破片が持たれており、鋭利な先端があと少しで喉元に突き刺さる所だった









私は、ただ無言で、話す事すら出来なかった。





話すなと言われたからだ






単なる子供じみた恐怖でしか無かった



























「危ないから、こんなもの持っちゃダメ」



女の子から言われた言葉は、実に
一般的な意見だった。




普通の意見だった










































その子は、あやと名乗った。


私は名乗らなかった







名前が分からないと言った






















「 じゃ、考えよ 」



あなたの名字あなたの下の名前は、その子が
付けてくれた名前だった。  

あやは名前をくれて、暖かい家に入れてくれて、
世話を見てくれた。





本名は知らない、どうでもいい




ただ、其れでいいと思った







































































親は死別した。



あやと分かれて、玄関口が開いていると思えば







開いた瞬間、親は玄関口で倒れていた。





母親が、玄関の扉に手を掛けて、
そのまま息絶えたらしい











部屋の内装は、いつも以上に荒れて

錯乱した様子だった。

刃物も刺さっていなければ中毒でも無い、人が入った様子も無い…殺人としては歪だ

自殺としてその事件は処理された。


















































































































親を無くして、施設で育って、大人になって





気づいた。










其れは、自分が犯人なんじゃないかと























友人が、目の前で錯乱し始めたんだ。




























































































太宰
………君は、周りに居る人を
錯乱させる…そう言いたいのかい
あなた
……はい



























太宰
其れは間違っている





































太宰
世の中には、自分の《異能力》を
制御しきれない者もいる
太宰
だが、“今回は”
身を滅ぼす訳じゃあ無いらしい
あなた
……何を言って
太宰
そもそも





男は声を張り上げ、本を閉じながら私の言葉を遮った。


















太宰
君が錯乱させる無自覚異能暴走者なら、
今頃街は壊れているも同然だ
太宰
君は十ニ歳で異能に目覚めた
太宰
だが、その後施設で錯乱した
人間を見たのかい?
あなた
………いや、見てません…けど
太宰
そうなれば、答えは一つだ


































































太宰
君の異能力は、自分の感情を
対象に植え付ける事
太宰
錯乱した友人と話していた時、君は「自分
が殺人について疑われる」と思い込み
太宰
情緒が安定しない状態が、
相手に植え付けられた
太宰
両親も同様だよ
太宰
君を錯乱して自害したくなるほど苦しめた
心境が、無意識に植え付けられたんだ
あなた
………そん…な、事は
太宰
受け入れ難いかい







太宰の容赦が無い言葉の一つ一つが、
頭蓋骨に突き刺される様だった。

 





























あなた
…でも
あなた
なら、何故!!!!
あなた
何故、貴方は…
あなた
私は今、可怪しい心境に居る、
貴方の言う通りなら!!
太宰
私に異能は通じない











あなた
……異能…が、通じ………無い?
太宰
そう
太宰
私の異能力は、異能無効化
太宰
だがら………いや、もう聞こえないか














あなたの名字は、その場にドサリと倒れ込んだ。













































太宰
…血管迷走神経性失神
太宰
常人の反応だよ、安心していい
太宰
君は、恵まれなかっただけの、
普通で可愛い女の子だ





静かに息をするあなたの名字の頬を、
太宰は優しく撫でた。








































































太宰
って事で
太宰
そろそろ出て来たらー?
太宰
気になって付いてきた挙句倉庫の入り口で
ずぅ〜っとソワソワしてた
国木田君ーーーー












国木田
…っ気づいて居たのか
太宰
うん、面白いから黙ってたけどね
国木田
…………貴様ッ
 






















国木田
所で、その小娘の件は
社でキッチリと会議するからな
国木田
お前が元凶なら責任を持て
太宰
えー面倒〜







































プリ小説オーディオドラマ